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ペルー情勢について

1月29日、駐ペルー特命全権大使の株丹達也氏が「ペルー情勢について」と題して講演を行った。以下は講演内容の抄録。

1.はじめに経済情勢

    本日はペルーについて、その経済と政治のお話をしたい。政治に関しては、今年、5年に一度の国政選挙があるので、特に大統領選挙の状況について解説する。また最後に、あまりご存じない方のために、ペルーを簡単に紹介する三つのキーワードをまとめた。

    ペルー経済に関していくつかの指標をまとめてみた。最初にGDPである。中南米は資源が豊富であり、活発な経済活動を行っている。ペルーはコロンビア、メキシコ、ブラジルなどと比較しても、近年の経済成長が著しい。2009年はリーマンショックの影響を受けてどこの国も低かった。その2009年を含め2014年までの過去10年の平均でいうと6.2%という高い経済成長率を達成してきた。

    一人当たりの名目GDPで日本と比較すると、ペルーは1977年頃の日本の数字に近い。日本と違うのは、貧富の差がかなりある点である。ヨーロッパの街並みのように綺麗な場所もあれば、全然違うところもある。一人当たりの名目GDPは、2014年は約6625ドル(注:なお、ドル高ソル安の急激な進行があり、2015年の一人当たりのGDPは5600ドル程度と見込まれている)だが、総額(2013年)では4561億ソル(1ソル=約34円)であり、おおまかに言うと過去20年で3倍ほどに拡大(1993年は1621億ソル、2003年には2456億ソル)した。

 

    インフレ率も低いレベルで推移している。ペルー中央銀行はターゲットとは言わないものの、1~3%の幅に入れたいとしている。最近は少し翳りが見えるものの、非常によい経済運営がなされている。

    外貨準備高と対外債務残高についても健全である。外貨準備高は大きい方がいいが、借金(対外債務残高)とのバランスも大事である。GDPの割合でみると、対外債務が32%で外貨準備高はほぼ匹敵する水準でありなかなかいい数字である。こういう変化が過去10年くらいの間に起きている。

 

    プライマリーバランスは基本的に黒字であり、財政運営としては堅実。日本では黒字が達成しにくい現実と比べればよくやっている。ただ、今の時代、多くの国での財政運営は民間投資が手控えられたときは借金をしてでもどんどん仕事をしていくという考え方なので、この点でいうと少し慎重といえるかもしれない。一方で格付け会社の評価は高い。中南米ではチリが一番いいが、ペルーはその次(メキシコと同順位)に位置している。

    ペルーは、資源に頼っていた国であったが今は国内消費のボリュームが厚くなり、経済をけん引するまでにきている。2014年は成長率こそ少し減速気味だったが、消費意欲自体に陰りはまったくでていない。民間消費支出は過去10年で2.2倍になった。

2.市場としてのペルーの魅力

    ペルーでは今でも食器は必ず6客セットで売られている。つまり家族は6人という発想である。最近やや少子化傾向に入りつつあるが、若い世代の存在がぶ厚いため人口ボーナスは今後も期待できる。社会的にとても安定していることもあり、魅力的な市場であると考える。企業の立場からすれば、3千万人という人口は些か小さく思えるかもしれない。しかし周りの国の多くがスペイン語圏なので、周辺国を含めた一つの地域としての市場規模で考えていただければと思う。まず、ペルーに進出してマーケットを広げるという考えもある。

 

    社会的な安定という点では、日本と比べれば貧富の差が目につくが、経済成長が目覚ましく、貧困率や極貧率は着実に下がっている。逆に言えば仮に経済成長が減速してくると社会的不安や不満がでてくる可能性はある。今のところは社会の安定という点で非常に良い回転になっていると言える。

    ペルーはエルニーニョやTPPでご存じの方も多いだろう。TPPメンバー国という点で期待できると同時に、EPAやFTAという、二国間の通商関係に熱心に取り組んできた国である。貿易全体の90%以上はEPAやFTAを結んだ国で占めている。ペルー人に聞いても、自分たちの市場は開放的でどこの国も差別していない、ということを誇りとしている。私からすると、日本が小さい島国から今日にまで至ったのは、少なくとも最初のうちは産業を保護的に育成し、これが強くなってから自由化を進めたからだと思うので、ペルーは少し門戸を開放し過ぎではないかという気がしないでもない。しかし、ペルーには多様な農産品があり水産業も盛んだし、もちろん鉱物資源にも大いに恵まれていて、自由主義的経済政策の方向性を維持し、成功しているのである。

    一方、同じ中南米でも貿易タイプが違うのがメルコスール(南米南部共同市場)である。中南米は大西洋に面している国々では保護的というか、域内でのボリュームで経済を回してきていた。このうち、アルゼンチンで昨年11月に政権交代があり、経済政策等が大きく変わるのかどうかが、中南米における注目点の一つであろうと思う。また米国がキューバと国交正常化するなど、米国がかつては裏庭と考えていた中南米との関係を今後どう見直すかという問題も根底にある。

    ペルーの鉱物資源については、現時点での生産量が世界第3位の規模のものが多い。埋蔵量も大きくて今後の期待という点でも非常に高いものがある。日本の経済界でのペルーの位置づけは、これまでは資源の国。特に銅のウエイトが大きい。

 

    ペルーは急激に経済成長したため、埋めなければならないインフラギャップが膨大にある。一方で日本が得意とする技術があり、日本企業にはその二つが重なる分野を重点的にビジネスしてはいかがだろうか。大使館はそのお手伝いを積極的に行っている。

 

3.白熱する大統領選

    次に政治について紹介する。まず政治体制だが、共和国制であり、法の支配や基本的人権を尊重する。権力が腐敗しないよう、大統領は連続再選が禁じられている。

    現在の大統領はウジャンタ・ウマラといい、軍人出身である。お父さんが筋金入りの左派である。3人兄弟のうち、その父親の教育方針によってウマラは日系の学校に行った。当時は日系でないペルー人が日系の学校にいくことはほとんどなかった。そのため、日本がどういう国かというイメージはご存じである。このほか駐在武官としてフランスと韓国に行っている。ウマラ大統領の支持率は就任以来、低下する一方である。これは金にまつわるスキャンダルによるものだ。夫人が与党の党首であるが、彼女に金銭スキャンダルが起きている。

    大統領は、任期5年で7月28日の独立記念日に就任する。全国を一つの選挙区とする直接投票が行われる。1回目の投票で過半数が取れない場合は上位二人で決選投票を行う。4月10日が投票日である。決選投票は6月5日に行われる(予定)。

    国会議員も任期は5年で基本的には任期途中の解散はない。有権者は18歳以上。投票は権利であると同時に義務でもあり、投票しないと罰金が課される。罰金の額は地区ごとの経済水準によって異なっている。投票率は85%くらいである。大統領選はすでに始まっており、今年は全部で19名が立候補している。厳密にいうと大統領と二人の副大統領がセットになって、投票する。19の政党・選挙連合の候補がいる。

    主な大統領候補を紹介すると、ケイコ・フジモリ候補が世論調査での支持率での最右翼である。フジモリ元大統領の長女で、ファーストレディを勤めた経験もある。そのため、40歳と若いながらも政治キャリアは長い。これまで女性の大統領はいなかった。フジモリ元大統領が2009年に最高裁で禁固25年の判決が出て刑に服しているというハンデを持っている。

    対抗馬は、まずラ・リベルタ前州知事のアクーニャ候補である。中央政界では新顔の扱いを受けている。また、最近アクーニャ候補に支持率で抜かれたクチンスキー候補がいる。高齢ではあるが経済分野では世界に通用する実績をもつ。そして以前2度大統領になったアラン・ガルシア候補もペルー人にとってはなじみがある。彼は社会民主系でアプラ党(アメリカ革命人民同盟)という、ペルーとしてはしっかりした政党を率いている。1度目の大統領当時に政策で失敗したため混乱が生じ、フジモリが彼の後任の大統領になった。そうした失敗を踏まえて、2度目の大統領時代は自由主義的で開放型の経済政策を行った。

    支持率は結構、変動する。土壇場で2位と3位が入れ替わることがたびたびあった。2位と3位では決選投票に進めるかどうかが違う。天と地の差であり、しびれるような激しい選挙戦が過去に戦われてきている。

    今回はどうであろうか。現時点では、ケイコ候補の人気が高い。世論調査の支持率で言えば35%前後にいる。熾烈な2位争いをクチンスキーとアクーニャが繰り広げている(注:講演後2月の情勢では、若手のグスマン候補が急激に支持率を伸ばしてきている。2位争いを3人で行っている状況)。

    これまでは、決選投票に残った候補者が次の選挙で大統領になっている。ある意味当然とも言える。連続再選ができないため、当選者(現職大統領)が選挙に出ることはない。。一方、前回の決選投票に進出した候補者は選挙戦の経験も豊富だし、名前も売れているからである。

    地理的にみると、太平洋の海岸沿(コスタ)に人口が多く、ここの都市部を制した候補者が当選する。ペルーは日本の3.4倍も広い。中央にアンデス山脈があり、3000~4000メートルの高地に人が住んでいる。赤道に近いので、本来は熱帯の気候のはずだが、高山地域では空気は薄いが涼しくて、人は住みやすい。それが産業の発展に伴って海岸沿いに人が集まるようになった。海沿いの地域は、かつては水が少なく、砂漠といってもいいところだった。今では人口が海沿いに移っており、選挙ではここを重視しないと勝てない。

    ただ、誰が大統領になったとしても、今の自由主義的な経済政策は変わらないだろう。各候補の政策綱領が出ているが、これを違いを見つけて色分けしようとしても、結局はどの候補もほとんど同じ色になるのではないかという印象を受けている。

 

4.おわりに

    ペルーを象徴する3つのキーワードを紹介したい。ひとつ目は「ディベルシダ(Diversidad):多様性」である。

    ペルーにはセルバ(熱帯性のジャングル)もあれば、シエラ(標高の高い地域)には極地に近い気候まであり、多様な動物相、植物相がある。バイオ関連でも大きな可能性がある。世界の7割の気候がひとつの国で味わえるといわれる。人種も様々である。ペルーの人が自分の国を紹介するときによく使う言葉が「多様性」である。

 

    二つ目が「イストリア(Historia):歴史」である。あまり知られていないがとても古い遺跡もある。有名なインカのマチュピチュ遺跡は比較的新しく、15世紀頃のものである。当時は「インカの道」(マチュピチュ遺跡同様世界遺産である)が全国に張り巡らされていた。

なお、共和国としての歴史は200年に満たない。5年後に建国200年を迎える。ペルーでは200周年にあたる2021年を期してOECDに入り、先進国になることを目標にしている。

    ペルーは非常に古い歴史と文化を持ちながら、スペイン人が徹底的に破壊した。インカ文明が文字をもたなかったため謎が多く残ってしまった。日本の学者は戦後早い時期からペルーで考古学調査をしており、多くの発見をしている。ペルー人に感謝されている。最近でもナスカの地上絵を山形大学が衛星を使って調査して、次々と新しい地上絵を発見している。

 

    三つ目は「ガストロノミア(Gastronomia):美食」である。セビーチェはペルーの代表的な料理だ。ペルーには世界一ともいえる漁場がある。中南米の食べ物といえば牛肉ばかりと思われがちだが、ペルーは魚を含めて食材も調理方法も豊富。日本からの移民の歴史は古いが、その前の移住の先輩が中国人である。その影響は料理にも現れているようだ。あまり知られていないかもしれないが、今、ペルー料理は世界的に高い評価を受けている。世界で最も美食を楽しむことができる国としてWorld Travel Awardに4年連続で選ばれている。クスコ、マチュピチュ、ナスカの地上絵が有名だが、それ以外の魅力もとても豊富である。是非、訪れることをお奨めしたい。

(文責:加藤)