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意識の超難問

主幹研究員 加藤竹彦

 「赤く見える, または対象をそのように見えさせる均質光と射線(Rays) を、私は赤色にするもの、または赤を生じさせるもの(Red-making) とよぶ。…また私が光や射線に色がある、または色を付与されているというとき、それは哲学的にまた厳密に言っているのではなくて、大まかに、普通の人がこれらすべての実験をみていだくであろう概念に従って言っているのであると理解されたい。なぜなら, 厳密に言えば射線には色はついていないからである。それらの中には、あれこれの色の感覚を引きおこす或る能力と性向(Power and Disposition) があるだけである。

 音は、鐘、または楽器の弦、または他の音響を出す物体の中では、振動以外の何物でもなく、また空気中ではその対象から伝播されたその運動以外の何物でもなく、そして感覚中枢(Sensorium) のなかでは、それは音という形態でのその運動の感覚(Sense) である。同様に色は、対象の中では、あれこれの種類の射線を他の射線よりも豊富に反射する性向以外の何物でもなく、射線の中では、それらはあれこれの運動を感覚中枢に伝える性向以外の何物でもなく、そして感覚中枢ではそれらは色という形態でのこれらの運動の感覚である。」

 何のことを言っているか、おわかりだろうか。これは「意識のハードプロブレム」という、大変難解なテーマについて触れている、と言われているくだりである。「意識のハードプロブレム」は、現在でも解けない、いや学者によっては永遠に解決不可能とされていることであるが、上記は1721年にニュートンが記した『光学』の一節である(島尾永康訳)。

 人工知能研究者のティム・ロバーツは「私はなぜこの私なのか」という問いを意識の超難問と呼んでいる。ネット上で「ハードプロブレム」、「クオリア」などを検索してみると、かなりの量の解説文を読むことができる。日常的な思考に関わる内容だから理解できそうなのだが、哲学的で結構わかりづらい。

 ミントの香りがある。嗅ぐとすっきり、集中力を高める効果がある。メントールという成分が含まれている。メントール⇒嗅覚⇒自律神経への作用、という流れはわかっている。分子レベルのメカニズムとしては、臭いは鼻腔の奥の嗅細胞において検知される。ここで鍵と鍵穴の仕組みで、レセプターに特定の分子が結合した際に、特定の香りが体験される。しかしながら、ある特定の形状の分子が、なぜある特定の香りをともなっているのか、まだ分かっていないそうだ。

 神経科学者のクリストフ・コッホは、虫歯の痛みで苦しんでいるとき「歯痛がなぜ痛いのか、自分の持つ生理学の知識では理解できない」ので意識の研究者を目指したという。これの意味するところがおわかりだろうか。

 赤く見えるのも、ミントの香りがすっきりするのも、虫歯の痛みも、そう「感じる」からだそうだ。その「感じ」をクオリアというのだが、このクオリアを人間はいつ手に入れたのか、クオリアはいつからこの宇宙に存在しているか、あるいは人間以外の動物、あるいは非生命的な物質にクオリアがあるのか、わかっていないという。

 そして最後の問いかけであるが、人工知能はこの「感じ」がわかるのだろうか。

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