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命と最も係わりの深いミネラル、P

主幹研究員 加藤竹彦

 リンという物質は身近ながら多様な性質を有するので興味深い。その正体はまず1669年のドイツで見つかった。ヘニッヒ・ブラントと名乗る医師が錬金術の実験としてバケツ60杯分の尿を蒸発させた残留物から分離された。残留物は後にリン酸塩と判明した。リン単体は燃えやすく、緑色の怪しい光を発する。元素記号は英語名のPhosphorusにちなんでP。名前の由来はギリシャ語の「光をはこぶもの」である。その製法は1680年に「ボイルの法則」で有名なロバート・ボイルによって確立された。

 リンはすべての生物にとっての必須元素であり、地球上におけるリンの存在量が、地球生態系のバイオマスの限界量を決定する。我々の体内にあるミネラルではカルシウムに次いで多く、成人の場合850グラムほど持っているとか、体重の1%を占めているとか言われる。生体内のリンは約80%がカルシウム塩として存在し、骨や歯の成分となっている。その他、DNAやRNAにはポリリン酸エステル鎖として、細胞膜にはリン脂質として存在する。

 リンは多くの食品に含まれているため、体内でリンが不足することはなく、むしろ過剰摂取が危惧されている。摂取し過ぎると腎機能の低下、副甲状腺機能の亢進、カルシウムの吸収抑制などをひき起こす。

 植物にとってリン酸・カリウム・窒素は三大肥料であるが、人類が紀元前3000年頃から始めた農業の歴史上、リン酸は不足し続けており、その原料のリン鉱石の枯渇が心配されている。太平洋に浮かぶナウル島が海鳥の糞の堆積によってできており、良質なリン鉱石の鉱山であったが、採掘によって栄え、20世紀末に採り尽くして経済崩壊を迎えているのは有名な話である。

 有機リン剤は動物の神経機能をマヒさせるので農薬や殺虫剤として利用される。誤用、服毒すると縮瞳、発汗、流涎、筋れん縮などの中毒症状が発生する。また、マッチの材料には古くは黄リンが使われていたが、黄リンを含む蒸気を吸い込むと、あごの骨を分解するほどの猛毒ガスであるため、後に頭薬は硫化リンに代わった。

 戦争でもリンは恐ろしいほどの効力を発揮する。白リン弾は発煙弾、焼夷弾などとして使用されるが、特に焼夷弾は空気に触れて発火し、人体に白リンが付着すると脂溶性が高いため骨に達するまで燃えてしまう。

 その一方で、リン酸塩は食品添加物として普及し、ハムやソーセージの結着剤、チーズの乳化剤、コーラの酸味料などに利用されている。リン酸水素カルシウムは歯磨きに使われている。他にも、金属の洗浄剤、繊維製品の難燃加工、粉末消火剤、リチウムイオン電池など幅広い用途で使用されている。黒リンは、原子数個の厚みしかもたないナノシート形状にすることでエレクトロニクス材料への応用が期待されている。

「ナポレオン、ヒソヒソあんたもビスマルク」。周期表第15族元素(窒素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス)をこう覚えた受験勉強の記憶が懐かしい。

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