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異類婚姻譚

主幹研究員 加藤竹彦

 人間が、動物や神など人間ではない何かと結婚する説話を異類婚姻譚という。古今東西、様々な言い伝えが残っている。

 伝説の生物や妖怪と人間の組み合わせは、欧州によく見られる。スコットランド神話に現れるセルキーは、海中ではアザラシとして生活するが、陸にあがると皮を脱いで人間の姿になる。男性のセルキーはハンサムで人間の女性を誘惑することに長けている。彼に会うためには、女性は海に7滴の涙を流す必要がある。一方、女性のセルキーは人間の男性に脱いだ皮をとられると妻になるしかなくなる。

 メリュジーヌはフランスの蛇女。ポワトゥー伯のレイモンがメリュジーヌと会って恋に落ち、土曜日だけは姿を決して見ないこと、という誓約を交わして結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けたが、つい誓約を破って沐浴中の正体を見てしまう。その結果、彼女は川に飛び込んで行方をくらます。ブリュターヌ地方ではかつてメリュジーヌの祭りがあり、人魚の形をした焼き菓子が売られ、その菓子の名前がメリュジーヌだったという。

 エルフは妖精と訳されることが多いが、スカンジナビア神話では神に近い存在である。人間とエルフの間に生まれた混血スクルドは最強で、魔術に通じ死んだ兵士を生き返らせることができる。

 動物との結婚は様々あるので、面白いものを紹介する。朝鮮半島にはカワウソの話がある。李座首(イ・ザス)という土豪には娘がいたが、未婚のまま妊娠したので李座首が娘を問い詰めると、毎晩四つ足の動物が通ってくるという。そこで娘に絹の糸玉を渡し、獣の足に結びつけるよう命じた。翌朝糸を辿ってみると糸は池の中に向かっている。村人に池の水を汲出させると糸はカワウソの足に結びついていたのでそれを殺した。やがて娘が生んだ子供は黄色(または赤)い髪の男の子で武勇と泳ぎに優れ、3人の子をもうけたが末の子が後の清朝太祖ヌルハチである。

 白蛇伝は中国四大民間伝説のひとつで、古くから小説や戯曲などの題材とされてきた。白蛇と人間は夫婦になるものの、法力を持った禅師に正体を見破られ、西湖畔の雷峰塔に封じ込められる,というお話。これが後に様々なアレンジ版を有する作品となっていった。

 日本では龍、猿、犬、河童、馬などの例がある。長野県に伝わる黒姫伝説は、土地に災いをもたらす竜蛇を鎮めるため、美しい黒姫が嫁入りするが、姫の持つ名剣と黒髪を使って退治するという内容だ。また、河童婿という話では、田に水を入れたお礼に河童に娘を嫁にやるが、ひょうたんを持っていたため嫁にならずに済んだという。

 馬を神様として祀る「おしらさま」は、農家の娘が飼い馬と仲が良く、ついには夫婦になってしまう。娘の父親は怒り、馬を殺して木に吊り下げた。娘は馬の死を知り、すがりついて泣いた。すると父はさらに怒り、馬の首をはねた。すかさず娘が馬の首に飛び乗ると、そのまま空へ昇り、おしらさまとなる、というストーリーだ。

 食わず女房という民話も愉快だ。ケチな独身男が「飯を食わず、良く働いてくれる者がいてくれれば嫁に迎えてもよい」と願うと、その望みどおりの女が現われて嫁になる。嫁は働き者であったが、不思議なことに米をはじめとした食糧が異常に減りはじめる。仕事に出掛けるふりをして家をのぞき込んだところ、嫁が大量の飯を炊いており、髪をかきわけ頭頂にある大きな口からそれを食べていた。正体を知った男が離縁をしようとしたところ、嫁はおそろしい本来の姿に戻り、男を自分の家へ連れ去る。男は隙をついて逃走、菖蒲の生えた湿原に身をひそめることによって、追跡から逃れることが出来た。その恐ろしい正体としてクモ、タヌキ、カエルなどが伝えられている。

 最後に、一番ケッサクな蛤女房を紹介する。昔々、ある海辺に、一人の漁夫の男が住んでいた。ある日、男が漁をしていると、とても大きな蛤が獲れた。男は、この大きさまで育つのは大変だったろうと、蛤を逃がしてやった。

 しばらく後、男のもとに美しい娘が現れ、嫁にしてほしいと言う。男の妻となった娘はとても美味しいダシのきいた料理を作り、特に味噌汁が絶品であった。しかし妻は、なぜか料理を作っているところを決して見ないよう、男に堅く約束させた。

 しかし男は、どうすればこんなうまいダシがとれるのかと好奇心に負け、ついに妻が料理をしているところを覗いてしまう。何と、妻は鍋の上に跨がって排尿していた。

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