医療事故と医療改革
2003年2月17日
国際社会経済研究所 副理事長 鈴木祥弘

最近の新聞紙上を医療事故の記事がにぎわす。先日の新聞で「アマリール」のゴチックの見出し活字が目に飛び込んで来た。私が病院で投与を受けている薬の名前をいちいち覚えているわけではないが、この薬の名前だけは、血糖降下剤と医師から説明を受けたこともあり、覚えていた。
新聞によれば、山形の県立病院で「アルマール」のつもりで「アマリール」を処方したところ、患者は意識不明になった。しかも、薬剤師は1ヶ月分の処方をしていたと云う。因みに「アルマール」は血圧降下剤、患者は血糖値が下がったので病院はブドウ糖を注射して意識回復をはかることが出来たが、しばらくの間、原因がわからないままであったと云う。
薬剤師は、直接患者を診ていないので医師の処方指示にもとづき、薬を出している。このように類似の名前の薬だとミスする可能性もある。最近は、処方される薬に、薬名(写真入り)、効用、副作用等の説明書が添付されていることが多く、事故防止の観点からも患者自身が確認する必要があるのだが、素人には簡単に理解しにくい。
医療分野は情報の非対称性の高い分野である。専門家である医師(薬剤師)の持つ情報と患者の持つ情報では質量とも格段の差がある分野である(最近、インターネットの利用により患者の情報は質量とも高まりつつあるが)。
死亡医療事故は、交通事故死の3倍あると推定されているが、事故原因を究明し分析することによる再発防止システム、特に情報公開が立ち遅れている。
医療事故の問題を考える時、45年前の会社入社時、品質管理、安全管理を担当した時のことを想起する。ミスを全て隠し立てしない、犯人探しではなくミスの本質を探すとの理念を持つ品質管理技術が、日本製品を向上させた。労働安全管理の面では、ヒヤリ・ハットする事故を減らすことが大事故の発生を防ぐ(1:29:300のハインリッヒの法則)。医療分野では、情報の非対称性が高いが故に、ミスを顕在化することが難しい。
大病院の外来患者の多さが、医療事故により拍車をかけている。今、入院している大学病院の外来は正月休み明けも重なり、ゴッタがえしていた。担当医は100名前後の外来患者を診察後、入院患者の治療に来るが、午後7時から8時になることが多い。担当医を研修医がアシストしているが、研修医の年収は私立大学で平均140万円、担当医も研修医も殆ど休日なしの勤務。いずれも大学病院では生活できないのでアルバイトしていると云う。この医療の実態が医療事故につながっている面もある。
大学病院が本来の入院医療や専門医療に専念できるように、医師及び医療スタッフの質量を充実させていくことに向けての医療改革が必要だ。少なくとも初期医療を担当する医療施設と高度医療を担当する医療施設との、その役割分担を明確にすべきである 。
以上