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ウクライナ情勢および今後のロシア政治経済と日露関係について

5月28日、ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所 代表取締役の隈部兼作氏に「ウクライナ情勢および今後のロシア政治経済と日露関係」と題してご講演いただいた。以下は講演内容の抄録。

はじめに

本題からそれるが、3.11が起きた時のロシアの日本に対する支援については、マスコミで取上げられることが殆どなく、日本人にはあまり知られていない。
3.11当日にロシアの知り合いから、明日、安全保障会議を開いて日本に非常部隊を派遣することになった、という電話をもらった。残念ながら捜索犬の検疫問題で時間がかかり(結局捜索犬は入国できず)、日本に入ったのは1週間後だったが、人数的にはロシアの部隊はアメリカ軍に次いで2番目だった。
非常部隊は本国に戻ってから、他の被災国では見られない日本人の冷静さと秩序正しい行動に感嘆したとプーチン大統領に報告したとのこと。また、「日本を助けよう」と書かれた大きな看板がモスクワ市内に掲げられ、ロシア国民から寄付が届けられた。それまで北方領土問題で日本大使館に卵を投げつけていた若者たちが、3.11を機に、大使館に花束を持参するなど、多くのロシア国民が支援に動いた。また、震災の翌年には、ロシア正教の総司教が来日され、福島を訪問し天皇陛下を表敬されるなどしている。

なぜこのような事がマスコミでは報道されないのか不思議だが、国会議員などがロシア人と面談する際に、この時のお礼を表することをお願いしている。今回のウクライナで、再び怖いイメージに戻ってしまったものの、ロシアがこのような支援をしていたという事実は知っておいて欲しい。

ロシア経済の実態

ロシア経済は、原油価格が高騰した2000年頃から急上昇し、それとともにGDP成長率も右肩上がりに伸びた。2007年頃にはロシアにかなりの資本が流入するようになっていた。2008年のリーマンショックで大きな影響を受けたが、すぐにV字回復した。

連邦財政黒字は、リーマンショック前にはGDP比5.5%に達した。98年の金融危機によりデフォルト状況に陥ったが、07年には外貨準備が25か月分の輸入を賄える規模になり、世界第3位の外貨準備保有国になった。総債務比率も外貨準備で返済可能な数値までになった。
2013年には世界で8番目のGDPになり、一人当たりの所得も1万5千ドルになった。BRICSといわれたように、日本企業もロシア市場に対して大きな関心を示した。

しかしここ数年、GDP成長率が低下してきている。リーマンショック前までの成長率は7%前後だった。それが2009年には-7.8%となったがV字回復して4%前後に戻るものの、13年は1.3%とウクライナ危機が始まる前から停滞し始めていた。その主な理由は過度にエネルギーに依存した経済構造にある。

エネルギー依存のロシア経済

ロシア経済はあまりにもエネルギー分野に依存している。財政収入の半分は燃料関連である。輸出構造に占める燃料の割合も2003年当時は54%だったが、2013年には7割近くになっている。

ロシアの原油、天然ガスの生産量はほぼ一定で増えていない。にもかかわらず、なぜエネルギーがロシアを潤したかというと、価格の上昇によるものだった。2000年当時24ドルだった原油平均価格は、11年には100ドルと4倍になった。天然ガスも2004年では100ドルくらいだったのが、342ドルになった。ロシア経済は、原油価格が右上がりに上昇したことによってお金が回っていた。現在も原油の平均輸出価格は100ドル程度、天然ガスは340ドル程度で安定しているが、高止まりしても経済成長は停滞しており、結局は、更なる価格上昇がなければ、ロシア経済の成長は望めない構造になっており、経済構造を変えなければならない時期に来ている。

ここ数年、所得の伸びに貢献していたのは、年金や国営部門の賃金という、いわゆる国のセクターで、その割合は半分近くを占めている。ここ数年、プーチン大統領は年金と賃金を上げてきた。これがリーマンショック以降の成長のエンジン役になっていた。しかし、財政の黒字がほとんどなくなってきたために、これまでのような政策を続けられなくなってきている。

ウクライナ制裁の影響

ロシア経済は、ウクライナ問題で制裁をかけられ、影響がでてきている。まず、格付けが下がった。まだ投資適格ではあるものの、もう一段下げられるとジャンクボンドになるので、踏みとどまらなければならない。
また、ルーブル預金の引出しが活発化し、外貨購入の動きがある。ルーブルを持っていても減価し、インフレが懸念されている。またお金をモノに代えておこうという動きがあり、2-3月は車や住宅が結構売れた。外貨が買われると外貨準備が減る。ロシアは世界第3位の外貨準備を持っており、去年12月末で5000億ドルあったが、今は4700億ドルくらいになっている。

国際金融市場からの資金調達も苦しくなりつつある。ロシアの大手企業は、海外からお金を借りているが、その借換えの条件が悪くなっている。そうしたこともあり、ロシアの財務大臣は、今年予定していた対外借り入れを一切やめると発表している。
また、クリミア経済再生のための歳出増の問題がある。財政支出は年平均30億ドル弱だが、2014-16年の予算を見ると最大で280億ドルくらいの予算を組まなければならない。連邦政府の財政は4000億ドルくらいなので全財政の5%をクリミア関連に割かなければならないという厳しい状況にある。

ロシアはウクライナ危機になる前から停滞気味だったが、経済発展省はウクライナの影響で、2014年下半期も高インフレ率、資本流出、投資活動の停滞、国内需要の縮小を予想している。ロシアの政府関係者も、地政学的な緊張が緩和されない場合は、今年のロシア経済をかなり厳しく見ており、マイナスの経済成長になる怖れもあるとしている。
ロシア企業は投資をせずに、ルーブル建てでお金を借りて、それを外貨で預金し、投資やモノの生産には使わず、金融資産の積増しをしている。

中露首脳会談の成果

今回の中露首脳会談での交渉には、ふたつの大きな案件があった。ひとつは天然ガス、もうひとつは戦闘機スホーイ35を売るかどうかである。

ロシアは以前、スホーイ27を中国に売ったが、中国はすぐにコピーし、多数実戦配備した。スホーイ35はいわゆる第5世代の戦闘機で、F35の対抗機種である。中国側からしつこく売ってくれと要請があったが、プーチンの政治判断で留保した。コピーされて極東に配備されたら、軍事バランスが大きく変わってしまうからである。

天然ガスについては、2004年頃から協議してまとまらなかったが、今回のウクライナ問題で、欧州諸国のロシアからのエネルギー依存比率引き下げ問題が浮上してきたことなどから、ロシアとしてはガス輸出については成功させなければならなかった。事前予想では、ロシアは中国に価格面でかなり譲歩しなければならないのではと言われたが、価格は欧州諸国に売却しているガス価格より若干安いレベルで合意できた。また、550億ドル以上と言われる建設費のうち200億ドルを中国が出すことになったが、この200億ドルはひも付き融資(中国側の鋼管購入やPL建設の請負)ではないかとも噂されている。

この契約は成功のように見えるが、エネルギーをよく知る立場からみると、政府が優遇税制などを供与しない限り、採算が合わないプロジェクトと見られている。建設環境条件が厳しいところに総延長が4000キロくらいになるパイプラインを建設するためのコストに加え、今回の合意から4-6年後に予定される初出荷からさらに5年後に(合意前までは、ロシアは10年を主張していた)義務供給量である380億立米を輸出しなければならず、これから探鉱・開発をしなければならないガス田から、これだけの量のガスをこの期間内で生産するのは厳しいと見られている。

他方、今回は合意されなかったが、現在、欧州向けに供給している西シベリアのガス田から中国にPLで輸出するのであれば、新たにPLを建設しなければならないが、その距離はわずかであり、ガス田の開発をする必要がないので採算が合う。但し、その場合、中国側にガスを利用する地域までの長いパイプラインが必要になるという問題がある。

今回のプーチン訪中によって経済面では新たな動きがあった。これまでロシアは中国にできる限り資源の利権を売却しない政策をとっていたが、今回のウクライナの件で、国際金融市場からの資金調達や、当初予定していた極東などの経済発展プログラムの実行に支障をきたす恐れがでてきたことから、中国マネーをある程度当てにしなければならず、資源や港湾などにも中国に利権を売り渡すことになった。ロシアの経済界からは、これで本当にいいのか、という声もでているとのこと。

今後の日露関係

今やロシア最大の貿易相手国は中国である。極東貿易では、今は全体の4分の3を中国、日本、韓国で分け合うかたちだが、プーチン訪中のプロジェクトが実行されていくと、極東の大半を中国が占めることになろう。

韓国もトップダウンでうまくやっている。韓国は今年からビザが不要になった。韓国からロシアに入る旅行者は2割増えている。日本のプレゼンスが大きく下がることになろう。中国、韓国が鉄道、道路、港といった極東のインフラを整備してくれるのであれば、それはそれである程度は良いが、差別的な取り扱いがなされないよう注視しなければならない。

日本はどのような対露政策をとればいいのか。
安倍政権になってから、本当に日ロ経済関係の動きは活発になっていたので、今回のウクライナ問題で水をかけられたのは大変残念である。また、クリミアのロシアへの編入については問題があるが、ロシアが全て悪いとの報道が多く、ロシアに対するイメージがソ連時代に戻ってしまい、今後のロシアビジネスへの悪影響は避けられない。報道の中には事実誤認もある。また、ウクライナで取材をし、同国の新政権側に都合の悪い情報をだすと、「お前はいつから親ロ派になったのだ」と言われ苦労していると嘆く特派員たちもいる。既に本社でサイドストーリーが決められ、それに沿わない情報は取り上げないのではと懸念している。

日本政府の制裁に関しては、ハーグのG7会議前までは、ビジネス界になるべく影響を与えないかたちで欧米の後ろを走るということでやっていた。ところが、米国からの圧力により、日本は対中問題もあり、前面に出てきていると見られ始めている。
先週、サンクトペテルブルグで投資フォーラムが開催されたが、米国からの要請でCEOクラスが欠席したため、日本の存在感が全くなかった。(米国のエクソンモービルの副社長ほか、欧州からも多数のCEOクラスが参加。中国もハイレベルで参加。)

プーチンがフォーラムのなかで「ロシア政府は領土交渉の用意はあるが、日本政府が何らかの制裁に参加したことを、最近驚きをもって耳にした。今日本に交渉の用意があるのか確信が持てない」と言った。菅官房長官は、日露関係に変更はなく、大統領の訪日を待っていると述べたものの、日本政府は次官級の交渉もストップしている状況である。

安部首相はソチ以来一度もプーチンと話をしていない。せめてプーチンが訪中する前に電話会談をしてもらいたかった。連休中に谷地NSC局長が親書を持って行った。これについてはロシアも評価していた。米国との関係もあるが、主体性をもった対応をしないと、まともな交渉相手として見てくれない。

ウクライナ情勢の見通し

2週間前にモスクワに出張し、今後のウクライナ情勢について各種情報を収集したが、確信したのは、ロシアはウクライナの東の領土に入ってこないだろうということである。その理由は経済的な問題で、東ウクライナは人口が700万人もいるのに、あそこには古い工場と品質の悪い石炭しかない。ロシアがそれを抱えると大変なお荷物になる。今はナショナリズムが高揚し、プーチン大統領は86%という驚異的な支持率を得ているが、今後経済が悪化し、ロシア国民の生活に悪影響を与えることになれば、同大統領に対する不満が出てくることがわかっているから、早めに解決したいというのが本音だろう。
前ウクライナ政権と米国政府はロシアと対話する姿勢がまったくなかった。ジュネーブ合意では、親ロ派だけでなく、2月21日の政変を引き起こした右派セクター(ネオナチ)の武装解除と公共の建物からの退去が決められたにも拘わらず、前ウクライナ政権と米国は、右派セクターの武装解除は要求せず、親ロ派のみを対象とするなど、効果が上がらないのは全てロシアの責任とし続けていた。

ロシアは今回のウクライナ危機について、EUの東方拡大政策の失敗が発端とみている。EUは投資協定を締結する条件として、ティモシェンコ元首相を牢屋から出せというウクライナが絶対にのめないものを挿入したように、最後まで金銭的な支援をするつもりはなかった。しかし、ロシアとの経済協力の合意ができると、クーデターまで起こして政権を奪い、ロシア語を公用語から外し、黒海艦隊の使用契約を破棄するような動きまでみせたことが、今回のウクライナ危機の引き金をひいたとロシアはみている。ロシアはウクライナの親ロ派に影響力はあるが、コントロールはできない。
ポロシェンコ大統領の6月8日の大統領就任式のあとにプーチンが会うことになると思う。前の政権より今の大統領のほうがロシアにとってはいい。そこで初めて対話ができると思っている。楽観はしていないが、今回の大統領選により、解決に向けた新しい動きが出始めたと思う。

ウクライナはEUかロシアかという選択をさせると成り立たなくなる国である。ロシアとの関係もEUとの関係ももたないと、この国の再興はできない。今まではウクライナ政府は欧米が助けてくれると思っていた。だから強気でいる。欧米は助けられるわけがない。特にEUの選挙でわかるように極右勢力がでてきて、むしろ極右勢力はロシア側の言い分を理解している。金銭では助けられない。ウクライナ側が現実的になって少なくとも今年の秋くらいまでには解決が見えてくることを期待したい。
(文責:加藤)

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