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ナイジェリア情勢について

8月4日、駐ナイジェリア大使の草桶左信氏が「ナイジェリア情勢について」と題して講演を行った。以下は講演内容の抄録。

1. はじめに

まず外務省の海外安全ホームページのナイジェリアについての渡航情報をご覧いただきたい。「退避を勧告します」という赤色部分が3州ある。北側と南の一部は「渡航の延期をお勧めします」。残りも「渡航の是非を検討してください」である。レベル0の白色の地域はなく、レベル1の「注意してください」という地域すらない。他の国がナイジェリアに関して出している渡航情報も似たり寄ったりである。多くの日本人から見た現在のナイジェリアはこんなイメージなのではないか。2~30年前であれば、ナイジェリアは石油大国でビジネスの可能性が大きい場所というイメージをより強く持つ人も多かっただろう。しかし現在は、残念ながらこれが現実で渡航に関しては十分気をつける必要がある。ただし今日は治安以外にも注目すべき色々な側面がある国であることも紹介したい。

ナイジェリアはギニア湾の奥に位置する。首都はアブジャで政治の中心地。南西部にあるラゴスは西アフリカ最大の都市で、経済の中心地である。邦人の企業関係者のほとんどがラゴスに住んでいる。アブジャ在留邦人の大方は日本大使館とJICAの関係者だが、若干の企業関係者の方も住んでいる。

2. ナイジェリアの政治・安全保障

ナイジェリアは、大雑把にいえば、北部にはイスラム教徒、南部にはキリスト教徒が多い。そして様々な民族が集まっている。一国をバランスよく治めることは重要な課題であり続けている。地域バランスは選挙や閣僚人事などを巡る議論にも頻繁に登場する。
今年3月に大統領選挙があった。ブハリ候補と前大統領のジョナサン候補が争い、独立後初めてブハリ候補が率いる野党が勝った。選挙ではテロや不正が横行するのではとの懸念もあったが、相対的には平和裡に行われたとの評価が多い。カードリーダーの導入により不正が困難になったことなどをその背景として指摘する向きもある。
地域バランスを踏まえ、大統領の南北ローテーションという政治の不文律がある。大統領選挙では、北部と南部の候補が交互に選ばれてきた。
また、ナイジェリアでは伝統的に州知事が非常に強い影響力をもっている。州知事が政党の幹部や有力閣僚になる場合もあり、地域バランスを語る際のまさに地域を代表する存在といってよいかも知れない。
ブハリ大統領は72歳、軍人出身で英国と米国に留学経験がある。石油大臣の際に来日経験もあるようである。ブハリ政権の重点政策は治安対策、腐敗対策、経済政策であり、これらをいわば公約として当選した。軍事・安全保障に関しては豊富な経験を有している。また、今後の具体的な経済政策が注目される。
国際関係面では、もともとナイジェリアでは英国と米国のプレゼンスが非常に大きい。かつて英国領だったことや石油大国であることがその背景であろう。米国は、ブハリ政権を歓迎しており、関係の強化を図ろうとしているようである。ブハリ大統領の米国訪問もその一例である。英国もブハリ政権を強く支持しているようである。油価の下落もあり、ナイジェリアは財政的に困難な状況にある。英の支援には公的財政管理などに関するアドバイスも含まれているようだ。
忘れてはいけないのがフランスである。テロ対策等を通じてナイジェリアへの協力姿勢を強めている。中国は鉄道や道路の建設などインフラ支援を行っている。治安が悪い地域でも道路整備などの事業を行っているように聞く。また、インドはナイジェリア産石油の最大の輸入国でもあることや、ナイジェリアには多数のインド人の方がいることなど、経済的な結びつきが強い。南アフリカ共和国はインドとともに多くの企業がナイジェリア国内で活動している。
国際機関としては、ナイジェリアは現在安保理の非常任理事国であること、西アフリカ経済共同体や、チャド湖流域委員会の中心国であること、が特筆すべき点である。
日本に関しては、在留邦人が160名(7月現在)、日系企業は20社強活躍している。

3. 治安

ボコ・ハラムは2002年に誕生した。様々な過程を経て現在のような組織になった。去年4月、北部のチボクという町で女子学生が多数誘拐されるという事件が国際的に大きな反響を呼んだ。ボコ・ハラムはナイジェリア北東部を活動の中心根拠地としている。渡航情報の「退避を勧告します」という地域はまさにそうした場所に相当する。今年の選挙期間中にジョナサン政権が大規模な作戦を行い、彼らに打撃を加えたとされている。しかし、依然として、各地で市場などを狙った自爆テロが発生している。今後、ナイジェリア政府は雇用や福祉、地域の復興といった政策を行い、人々、特に若者に将来への希望を与えることが必要だろう。なお、ラゴスはテロからは遠いという印象を持つ方が多いかも知れないが、テロリストの目から見ればターゲットとしての価値は十分あるので、在留邦人の皆さんにはラマダンの際に人ごみを避けるなど、油断しないようお願いしているところである。
最近話題なのが海賊である。アフリカの海賊と言えばソマリア沖が有名だが、ギニア湾でも海賊が増えている。ソマリア沖の海賊に比べ小規模で装備も小さいとされるが、最近数が増えており、周辺諸国は懸念している。

4. 経済の概況

ナイジェリアのGDPをみると、ここ数年5~6%前後と、総じて高い成長を遂げてきた。2015年予測は、4.5%で成長すると5941億ドルになるが、第一四半期は3.96%だった。石油価格の下落が一つの要因だと思う。
人口については複数の数字があるが、1.7億、1.8億といった数字のほかに、低めの見積もりとしては1.5億人くらいというのもある。それでもアフリカではダントツに多い。2位はエチオピアの約9千万である。
ナイジェリアではGDPの基準改定が行われた。それ以前はサービス業が正しく算入されていなかった。GDPの世界ランキングは21位である。
石油大国というイメージがあるが、経済を見ると第三次産業が60%を占める。第一次産業としての石油、ガスの採掘は10数%しかない。石油だけでなく民間経済は多角化しているのである。ただし、たとえば東南アジア諸国と比べると製造業の比率が低いことが課題ではないかと思う。一般的に、製造業が発展しないと雇用が生まれにくく、これが格差是正のブレーキになるように思えるからである。また、油価低下で通貨が安くなっても、それを生かして製品の輸出を伸ばす力が十分でないことにもなる。現政府は製造業や農業の振興に力を入れており、それらの面で日本にも期待している。
他方、財政、国家予算に占める石油歳入のシェアは大きく、最新の数字では44.7%を占める。油価が下がっているので割合が減っているが、実際には7割くらいを石油歳入に負っているという感覚だろうか。

5. 対外経済関係

貿易面を見ると、輸出の9割以上が天然資源である。一方、輸入は機械製品や工業製品が多い。また直接投資は少なく、GDP比での投資率は1.1%程度である。そのわずかな投資も概ね南部に集中している格好である。世界銀行がビジネス環境を指数化しており、それを見ると2013年にはナイジェリアは131位でその下がインド、上がブラジルだった。2014年には175位にまで下がり、ナイジェリアの上に東ティモールが位置していた。2015年は170位である。アフリカ諸国では南アフリカが43位、ルワンダが46位、ガーナが70位である。
現在、日本とナイジェリアの経済関係は投資も貿易も非常に小さい。治安面の不安から、日本企業がナイジェリアを回避している部分が大きいかと思う。日本の進出企業は1980年代には47社あったが現在は23社である。最近の話題としてはホンダが4輪車を年間千台規模で製造し始めたこと、ヤマハがバイク製造を始めたことなどがある。日本の企業にとってナイジェリアは治安面の不安や電力不足などの問題のため進出先として難しい国であるけれども、そのポテンシャルも踏まえ、真剣に可能性を見極めようとしている企業もあるだろう。

6. 西アフリカ経済共同体

アフリカにも様々な経済統合がある。ナイジェリアが属しているのは西アフリカ経済共同体(ECOWAS)という、仏語圏と英語圏が混じる西アフリカ諸国の経済統合である。事務局本部はナイジェリアにある。経済規模でも人口規模でもナイジェリアが他の14か国より圧倒的に大きい。
ECOWASは2015年1月からは対外共通関税を導入、2020年には共通通貨を目標としている。ただし、計画と実際の進み具合のギャップを注意深く観察する必要がある。
ECOWASとEU間の経済パートナーシップ協定は象徴的な例かも知れない。この協定につき、ナイジェリアは自国に大きなメリットはないと感じているように見える。経済統合に慎重な姿勢をとっているのではなかろうか。統合しても得るところが小さいという配慮が働いているのかも知れない。もし統合が実現すれば、治安面の不安のあるナイジェリアではなく、たとえば、ガーナに投資してガーナからナイジェリアに輸出すればよいと考える企業が出てくるであろうことは容易に想像がつく。しかし、統合の動きがあること自体には注意をしておくべきものと思う。

7. おわりに

日本の皆さんにどんなメッセージを示すべきか考えた。渡航情報が示す通り、社員の皆さんの安全を考えて進出については慎重に検討すべきである。一方でビジネス面のポテンシャルが大きいことも事実である。
ナイジェリアは現在、岐路にある。治安対策、汚職対策、経済再生の実現はブハリ政権の旗印である。ナイジェリアにとっては折悪しく油価が下がっており、財政は余裕を失っている。この中でこうした課題に取り組まなくてはならないのであり。これは政治の話である。一方、人口が多く、産業構造が普通に考えられている以上に多角化し、その中で新興企業がおき、確立した財閥も存在するし、欧米で教育を受けた若い人が帰国後にサービスや情報関連の新ビジネスを始めるといった動きも多い。政治と経済のこうした2つの側面を見るとき、これらが同じ国で同時に進行していることを不思議に感じる人もおられるかも知れない。前者は中央部の首都アブジャを中心に、後者は南西部ラゴスを中心に起きている。前者を前提に考えると「様子見」だということになるし、後者のみを重視するとすぐに進出してもいいと考える企業も出てくるかも知れない。
平均的には、今後、経済がたくましく成長することを期待すれば、ナイジェリアをよく観察し人脈を築きビジネス環境を知るといった準備をすることになるのだろう。ナイジェリアは投資先としては先ほど紹介した世界銀行の評価が示している通り、各国との比較で楽な国とはされていない。そこで、チャンスをうかがい、有望なパートナー企業、欧米企業、インドや南アの企業でも地元で育ちつつある新しいナイジェリア企業でもいいが、そうした企業との協力関係づくりに励むというのも一案だろう。必ずしも日本人を送りこまなくてもいい、いろんなやり方がある。各社のリスク判断によって、現地のことをよく知り、治安上の問題を回避しやすいローカルスタッフを雇うとか、短時日の出張ベースで臨む企業もあるだろう。何らかのかたちで現地にアンテナを張って観察することが重要ではないかと思う。そして、安全の問題は日々流動的であるから、是非大使館によく相談をしていただきたい。大使館としては邦人保護に万全を期したい。そうした用心をしながら対応していただくのがよいかと思う。
(文責:加藤)

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