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愛情ホルモン

主幹研究員 加藤竹彦

先日、興味深い記事に出会った。主人と飼い犬が見つめ合い、交流をはかることで互いに親密になっていくことが、実験を通じて確認できた、という内容だった。研究チームによると、よく見つめ合ったグループは、そうでないグループに比べて、犬と飼い主双方の尿中のオキシトシン濃度が上昇したという。
 
オキシトシンとは、哺乳類が共通に持つ神経伝達物質であり、また器官に作用するホルモンでもある。広く知られているホルモン作用としては、母体の子宮を狭め、子宮口を広げることで出産を促す働きや、乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すなどの働きがある。オキシトシンの存在は19世紀末からすでに知られていた。Oxytocinは「quick birth」を意味する。オキシトシンにはほかにも、食欲を抑制する作用やストレスを軽減する作用、痛みに対する耐性が増す、学習効率を高めるなどの働きがある。そして何と言っても注目すべきは、オキシトシンが脳内で働くと、相手への愛情や信頼感を生む効果があることである。
 
なぜ体内のオキシトシン濃度が上昇すると相手への信頼感が増すのか。脳の側座核という領域がオキシトシンによって刺激されると相手への執着心、愛情が高まるそうだが、そのメカニズムはまだ解明されていない。
 
オキシトシンの分泌は、愛撫や抱擁など触れ合うこと(皮膚接触)で促されることから、抱擁ホルモンと形容される。また冒頭の記事のように、互いの新密度が増すと体内濃度が増えるので愛情ホルモンとも、また体内濃度が増すと癒し効果があるため幸福ホルモンとも呼ばれる。ヒトの女性は、相手が誰であれ30秒間抱きしめられると自動的にオキシトシンを分泌するのだそうだ。
 
ところで、そもそもオキシトシンはシグナル物質(リガンド)であり、その受け皿となる受容体(レセプター)と結合して初めて効用が発揮されることになる。オキシトシンの濃度を高めるだけでいいのではなく、受容体の数が少なければ効用が下がる。
オキシトシンが増えるとオキシトシン細胞を刺激し、受容体の数も増えるという説もあるが、相関は不明である。
 
また最近の研究によって、受容体をかたちづくる遺伝子にいくつかのタイプがあることもわかってきた。遺伝子がコードするある部分のアミノ酸の繰り返し数が少ないほうが、相手との親和性が高く、多いと攻撃性が高い、という傾向があるようだ。つまり相手に愛情や信頼を抱く傾向は遺伝する、ということになる。こうした研究はここ10年でかなり進んだようだが、今後ますます謎が解明されていくことになろう。
 
日本には古くから「『つ』がつくうちは,膝のうえ」という言い伝えがある。ひとつ、ふたつ、と数えて9歳までは母親の膝の上において育てることが大事だとの意味がこめられている。スキンシップを通じてオキシトシンと受容体を増やすことが、愛情に満ちたいい子に育つ秘訣なのかもしれない。

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