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傾国のコスメ

主幹研究員 加藤竹彦

 化粧の起源は約7万年前、口や耳などの穴から悪魔が侵入するのを防ぐため赤色の物体を塗る、いわゆる口紅がはじまりと推測されている。また、古代人は色のついた顔料を塗って日焼け止めにしたり、香油で皮膚を乾燥から守ったり、虫よけのために孔雀石やラピスラズリなどの鉱石でアイラインを入れていたというから、実用的な意味があったようだ。

 肌を白く見せるのは、当初は特権階級のシンボルであった。古代エジプトでは肉体労働をしていない証拠として、古代ローマでは貴族の不摂生な生活を隠すためであった。時代が下るに従い、肌の白さは人に美しく見られたいから、という願望に変質していった。この『七難隠す』努力は世界共通であるが、そのために使う白粉(おしろい)の歴史は中毒とのたたかいでもあった。白色粉末の亜鉛華は毒性が強く、塗るとめまいや吐き気を引き起こした。また鉛白は美白肌の色彩として大変に美しく見えるものの、シミを増やす原因となった。水銀を含む白粉はさらにひどく、肌が荒れ、歯茎が黒ずむなどの症状に悩むことになる。中世ヨーロッパの女性は、白く見せるために瀉血をしてわざと貧血を起こしたりもしたが、いずれも健康によくなかった。

 一方、歴史上有名な美女たちの美容法が今日まで語り継がれている。クレオパトラは、黄金による顔パックに、当時は黄金より高価だったローズの風呂に浸かっていたとか。また、真珠を酢で溶かしたドリンクや、ハチミツと砂糖のワックスによる脱毛法なども伝わっている。楊貴妃は半身浴が有名なほか、ヒスイによる顔マッサージ、若返り効果があるといわれるライチやツバメの巣を食し、母乳や女性の生血ドリンクを愛飲したとの伝説がある。ちなみにツバメの巣や母乳には、保水効果の高いシアル酸が豊富に含まれているので理にかなっているのかも。

 暴君ネロの第2妃ポッパエア・サビナは『良心以外は全て備えている』とまで言われた性悪美人だが、毎日ロバの乳(ロバミルク)とローズの風呂に入るほか、脂肪、ハチミツ、穀物の粉、パンをすりつぶした顔パックをロバミルクで洗い流していたそうだ。その洗顔回数は1日700回。このため500頭のロバを飼い、旅行のときは50頭のロバを引き連れて行った。

 マリー・アントワネットは、ろっ骨を下から2本折ってコルセットで締め上げ、バスト109、ウェスト48、ヒップ90センチを誇ったそうだ。また、歯を抜いて矯正し小顔を作り、肌のためにプラセンタを摂取していた。ローズ、スミレといった花やハーブなどの植物系香料から作られる軽やかな香水を愛用していたこともよく知られる。

 オーストリア皇后エリーザベトは写真も残っており、確かにかなりの美貌の持ち主である。身長172、ウェスト50センチ、体重は生涯43~47キロを維持したが、過酷な運動、ダイエットと美容法の賜物だった。肌の手入れにはイチゴ、ゴマ油、ハチミツ、ミルク、果物の全身パック、就寝時に子牛の生肉による顔パックを欠かさなかったという。

 『イタリアの女傑』として歴史に名を残すカテリーナ・スフォルツァは塩野七生女史によると、洗顔には新鮮な卵の白身を煮て漉したお湯を使い、シミ取りにはサギの糞をみじん切りにしてブドウ酒で煮て漉したお湯を使い、手を美しくするには苦いアーモンドの実をよく洗ってみじん切りにし、一晩水につけておいた後、水を捨て、白芥子二個とサラセン芥子四個をみじん切りにし…と延々と続くので以下省略。ほかにも髪に艶を出す方法などあるが、みなオーガニックっぽい内容でこれも参考になるかもしれない。

 究極はハンガリーの『血の伯爵夫人』ことバートリ・エルジェーベト。600人ともいわれる女性を残酷な方法で殺し、その生血を肌に塗ってマッサージしていたそうである。美の追求に終わりはない。

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