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ヒト、ヒト、ヒト…

主幹研究員 加藤竹彦

 ユヴァル・ノア・ハラリの名著『サピエンス全史』によれば、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を駆逐したことから人類の歴史が始まることになるが、この「人類」とは現生人類のことで、生物分類学的にはヒト上科ヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ヒト属の「ホモ・サピエンス・サピエンス」のことを指す。ウィキペディアの「人類の進化」を読むと、私たちの祖先がいかに多様性を帯びつつ進化してきたのかを伺い知ることができて面白い。

 現時点の人類史によると、霊長類(サル目)の誕生はおよそ8500万年前まで遡ることができるが、顕著な進化は6500万年前の白亜紀末期頃に起きたそうだ。2800~2400万年前頃になると霊長類のうちの狭鼻猿類がヒト上科とオナガザル上科に分化する。時代は下り、ヒト上科はテナガザル科とヒト科に分かれる。ヒト科はヒト亜科とオランウータン亜科に分化。ヒト亜科はヒト族とギガントピテクス族、ゴリラ族の3類に分かれていく。800~700万年前頃になってヒト族がヒト亜族とチンパンジー亜族に分類、チンパンジーと袂を分かつ。ヒト亜族にはヒト属(ホモ属)のほかに、サヘラントロプス属、オロリン属、アルディピテクス属、ケニアントロプス属、パラントロプス属、アウストラロピテクス属が含まれる。400万年くらい前のことだ。

 200万年前あたりから、ヒトは猿人から原人へと進化が進む。原人にはホモ・サピエンスやホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)以外にも、「ホモ」の接頭語をもつ6種類の原人がいたようだが、結局現存しているのはホモ・サピエンス(正確にはホモ・サピエンス・サピエンス)だけである。どうしてホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。『サピエンス全史』のいうように妄想力や認知革命のお蔭だったのかもしれない。そもそもヒトの脳が発達した理由には、食糧を集めるために水中を歩き、泳ぎ、潜ることが人類の祖先と他の類人猿の祖先に異なる選択圧を与えたからという水生類人猿説や、樹上性だった(かもしれない)人類の祖先が狩猟のため、あるいは樹林の減少によってサバンナへ進出したからというサバンナ説、あるいは脳が肥大化、高度化したのは遺伝子変異という説もある。

 また、知能の発達に関しては、レイモンド・ダートの狩猟仮説、つまり動物を効率よく狩るために予測や想像といった知性の発達が必要で、肉食による摂取エネルギーの増加は脳の増大を許容したかもしれないという説がある。その一方でドナ・ハートとロバート・サスマンはその著『ヒトは食べられて進化した』で、ヒトは長い間、捕食者ではなくむしろ被食者であり、捕食を回避することが知能発達の選択圧になったと主張している。人類学者パスカル・ボイヤーは暗闇に対する恐怖、幽霊の錯覚のような認知的錯誤の一部が捕食者回避によって発達したのではないかと考えている。

 私にとって興味深いのはヒト属の中で交雑が行われ、私たち人類の遺伝子にネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子情報を共有していることである。交雑がどのようにして行われたのか、戦いに勝ったほうが負けた女性(メス)を所有したのか、あるいは互いに感情が芽生えたのか。まあ、DNAをたどれば、現生人類の最も近い共通の女系先祖(ミトコンドリアイブ)に行き着くのだから、どうであっても不思議はないのだろうけど。

 人類が今後数十万年、数百万年も生き延びるとすれば、ホモ・サピエンスも過去と同様に枝分かれする可能性がある。その場合は脳がさらに進化した人類とそれ以外、という分類になるのだろうか。

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