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サロン講演録

著作権法がソーシャルメディアを殺す

4月10日、国際大学GLOCOM客員教授の城所岩生氏に「著作権法はソーシャルメディアを殺す」と題してご講演いただいた。以下は講演内容の抄録。(詳しくはPHP新書896「著作権法がソーシャルメディアを殺す」をご一読ください)

世界の潮流に逆行する日本の著作権法

 はじめに問題。ツイッターで歌詞をつぶやくのは有料か? 日本の場合、「引用の要件を満たさない限り」有料となる。「引用の要件」とは最高裁が1980年に課した非常に厳しい要件である。

 一方アメリカでは「フェアユース(fair use)」(著作物を公正に利用する場合、著作権者の許諾がなくても著作権の侵害にあたらないとする考え方)に該当し、無料である。米著作権法第107条に「第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授・・(中略)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユースは著作権の侵害とならない」とある。「等」と書いてあるのがミソである。「等」も含まれているため、使用がフェアユースにあたるかどうか判定する際の要素を4つあげている。4つの中でもとりわけ重要な要素に「著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響」というのがある。

 わかりやすく言うと、原作品の市場を奪うかどうか、奪わなければいいじゃないかという考えである。ツイッターは140文字なので原作品の市場を奪うとは考えにくい。

日本発の新サービスはこうして葬られた

 日米で対照的でその後の新サービスに大きな影響を与えた判決がある。アメリカではソニー事件といわれる、映画会社がVTRを開発販売したソニーアメリカを著作権侵害で訴えた事件があった。最高裁は、ユーザーは後で視聴(タイムシフト)するために録画するのだからフェアユースであり、ソニーが著作権侵害に加担したとはいえない、との判断を下した。

一方、日本ではクラブキャッツアイ事件というのがあった。カラオケ店で日本音楽著作権協会(JASRAC)に使用料を払わずに客に唄わせていた。著作権侵害しているのは客だが、場を提供している店主をJASRACが訴えた。最高裁は、客の歌唱を管理し、利益を得ているのは店主が歌っているのと同じとの判断で、店主に責任を負わせた。これがその後の新サービス提供に大きく影響した。


 2000年代後半に日本で「ロクラクⅡ」、「まねきTV」というテレビ番組の遠隔視聴サービスに対する訴訟が起きた。海外にいる日本人に日本のテレビ番組を提供するサービスである。まねきTVはインターネットを使って番組をライブで流すサービスであり、ロクラクⅡはソニーの「ロケーションフリー(ロケフリ)」という機器を業者が預かり、ユーザの指示に従ってアンテナから番組を録画してインターネットでユーザのパソコンもしくは専用セットトップボックスに送信するサービスである。ロクラクは複製権侵害、まねきTVは公衆送信権侵害で訴えられた。いずれも知財高裁では非侵害であったが、最高裁は2011年に侵害判決を下した。

 一方、アメリカでケーブルテレビに関する事件が起きた。ケーブルビジョンという会社が、番組の録画サービスを行った。ユーザは自分で録画機器を持たなくてもサーバ側でユーザの指示に従って録画してくれる。テレビ局は複製権を侵害していると訴えたが、NY高裁は、録画の指示はユーザなので侵害を認めなかった。また、アメリカには公衆送信権というのがなく、公の実演権について争われたが、それも非侵害だった。

日本発・画期的発明はこうして葬られた

 ウィニーについては皆さんもよくご存じだと思う。ウィニーと似た事件としてアメリカで90年代にラマッキア事件というのがあった。刑事事件であること、有名大学の優秀なエンジニアであること、支援者が費用を寄付して基金ができたことという共通点がある。

ラマッキアは、MITのワークステーションの電子掲示版機能を使い、ソフトウェアを違法コピーして配布できるシステムを構築した。ラマッキアは当然逮捕されたが、そういう行為を罰する法律はないという理由で、8か月で無罪になった。

 一方、ウィニーは無罪確定まで7年半かかった。識者の間では「10年に一度の傑作」ソフトといわれながら、開発者の金子さんは去年42歳で亡くなった。ウィニーの弁護団の事務局長だった弁護士は「(技術開発に対する)萎縮効果は抜群だった」と述べた。欧米版ウィニーを開発した北欧の2人の技術者は、金子さんとは対照的にその才能を開花させた。その後、インターネット電話「スカイプ」を開発、ネット大手企業に売却して、億万長者になったからである。

 20世紀の画期的な発明というのは、開発時には現在のような使われ方を予想しなかったものが多い、という記事がアメリカのエレクトロニュース紙に掲載された。従って、芽のうちからそれを摘み取るようなことはしないほうがいい。

コードカッティング

 アメリカではケーブルビジョン判決の影響でコードカッティング、要するにケーブルテレビを解約する動きがでている。デジタルネット時代になってOTTV(Over the top video)、ブロードバンドによるビデオストリーミングサービスなど新しいサービスが次々と登場している。ケーブルテレビ会社はもともとコートカッティング対策にサービスを開発し、TV局と争って勝ってきたのが、今度はその判決を拠り所にした新手のサービスを訴えるという皮肉な状況である。

 広告とばしという、一週間のゴールデンアワーの番組をまるごと録画して、再生時に広告とばしのボタンを押すと広告なしで見られるというサービスに対してもTV局から訴えは退けられた。筆者が在米中に読んだ判決に「著作権法は古いビジネスモデルを守るためにあるのではない」という一文があった。このように裁判所が新技術、新サービスに好意的なこともあって、アメリカでは新しいサービスを開発した企業とそのユーザが勝ち組になっている。

 対照的に日本のテレビ業界は、立法、司法、行政に守られて最後の護送船団業界といわれ、競争原理が働かない古いビジネスモデルにしがみついている。このため、ベンチャー企業や視聴者が負け組となっている。

グーグル書籍検索サービス訴訟

 グーグルは2005年に図書館の蔵書をスキャンして検索可能としたが、作家組合に訴えられた。データベースを作るためにどうしても全文コピーが必要だが、見せるのは数行だけで、これはフェアユースにあたると反論した。2008年に両者は和解を試みたが、集団訴訟だったためベルヌ条約によって全世界の著作権者に影響が及ぶことが判明し、日本の出版業界に黒船騒ぎを巻き起こした。和解案は結局、裁判所が許可しなかったため、両者は訴訟に復帰したが、裁判所は2013年にグーフルのフェアユースを認める判決を下した。

 この間、日本でもフェアユースに関する検討が始まった。ネット法構想がでて、知財推進計画でも2008年に取り上げた。担当の文科省が検討して、一昨年法案が成立したが、かなり骨抜きにされてしまった。

 最近の著作権法の動向を見ても、日本では権利者が勝ち組、ユーザーが負け組となっているが、アメリカでは、ユーザーがグーグルなど場を提供するプラットフォーマーとともに勝ち組となっている。

カリフォルニアの南北戦争&ロビーイング2.0

 ソニー判決以来、新技術・新サービスに関連する訴訟や立法をめぐっては、カリフォルニアの南北戦争(ハリウッド対シリコンバレー)が展開されてきた。2011年の著作権強化法案をめぐる攻防もカリフォルニアの南北戦争で始まったが、法案の命運を握ったのはネット市民の声だった。 ウィキペディアが一日ブラックアウトし、ネット企業大手もネット上での抗議を呼びかけた。ウィキペディアの画面では自宅の郵便番号を入れると議員の名前がわかるようになっており、法案の阻止を訴える仕組みになっていた。

 その結果、議員が反応して、ほとんど成立直前までいっていた法案が廃案になった。ハリウッドは9400万ドルを使っていたが、ネット市民との戦いに敗れた。これはロビーイング活動の在り方が変わった象徴であり、ロビーイング2.0と呼んでいる。


 「ロビーイング2.0」は、有力組織の代弁者化しつつある政党や政治家に、われわれ有権者の意見をきちんと伝えるロビー活動である。日本でもネット選挙解禁によって、2013年の都知事選では、選挙民の意見を吸い上げて政策に反映させる候補者も現れた。

 ユーザーはソーシャルメディア時代、ユーザー作成メディア(UGM)時代の主役を担うべきであるにもかかわらず、日本では上記のとおり負け組となっている。ネット選挙解禁を機にユーザーも「ロビーイング2.0」を活用して、負け組を脱却すべきである。それはユーザーのためだけではない。ユーザー作成メディアを花開かせ、クールジャパン戦略推進に役立たせる国益のためでもある。

 

(文責:加藤)