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IISEシンポジウム「IoTの新地平 ~日本が勝ち抜くための新戦略」

2016年3月18日、国際社会経済研究は、国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)の協力を得て、シンポジウム「IoTの新地平~日本が勝ち抜くための新戦略」を開催した。会場となった内幸町ホールには、ITベンダーのみならずITユーザ企業からシンクタンク、学術関係者に至るまで様々な分野から約140名の参加者が詰めかけ、IoTへの関心の高さを改めて示した。

岡田理事長の開会挨拶
岡田理事長の開会挨拶

冒頭、当研究所の岡田秀一理事長からの開催挨拶に続き、東京大学先端化科学研究センター教授の西成活裕氏より基調講演「IoTの意義と未来」を行った(西成氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)。

西成氏は「大戦略なしの戦術論のみでは世界をリードできない」と指摘した上で「確固たる思想哲学をベースとした技術論を展開すべき」と主張した。さたに、IoTには3つの革命的なインパクト、①「新」社会システム、②社会における意思決定の明確化と「グレーゾーンの消滅」、③「新」人間の時代、があると説明した。これらを総括して、IoTの意義とは「あらゆる渋滞(ボトルネックと偏在)を効率化する産業革命」であるとし、「日本は独自の強みを生かしたIoTを」展開すべきであると主張した。最後に、今後の日本の課題として①オープンデータの流れを作る、②社会性の整備、③合意形成、異分野融合のための仕組み作り、④日本の強みを生かせる人材の育成、を上げた。

東京大学 西成活裕教授
東京大学 西成活裕教授

続いて、当研究所の名倉賢主任研究員より「IoTを超えるための動的な戦略~多形的なネットワーク論~」と題して講演を行った(名倉氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)。

名倉氏は、まず「今のインターネットは『スケール不変性』という性質をもった世界で唯一の共通プラットフォームであるという世界観に支えられている」と指摘した。その上で、今後はネットワークをはじめとしたIoTの構成要素が知能化することで「モノが自律性」を獲得して、その時々の環境に応じて柔軟に「融合と分裂」「生成と消滅」を繰り返す、より動的かつ多形的なネットワークが形成されるという多形構造の仮説を提示した。そして、この多形構造こそが、スケール不変なインターネットというIoTの中核的な世界観を変える可能性を持つものであると主張した。さらに、この多形的なネットワークの形成には「スケール不変性の破れ」という概念が理論上、鍵を握ると主張した。

国際社会経済研究所 名倉賢主任研究員
国際社会経済研究所 名倉賢主任研究員

さらに続いて、当研究所の松永統行主任研究員が「知能化するプラットフォーム IoTの未来へ」と題して講演を行った(松永氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)。

松永氏は、多形構造(ポリモルフィック)とは「システム、全体として機能するまとまり、の要素の一部もしくは全てが、自律化や自己組織化する環境の下でシステム構造が変化すること」と定義し、ポリモルフィックネットワーキングの概念は「通信技術を超えて社会的な課題にも対応できる構造概念である」と主張した。松永氏は、ポリモルフィック(多形構造)の議論を展開した上で「現状のインターネットとは別に、将来に向けてポリモルフィックネットワーキングによるICT分野の研究を進める必要性がある」と主張した。

国際社会経済研究所 松永統行主任研究員
国際社会経済研究所 松永統行主任研究員

休憩後、「日本が勝ち抜くための新戦略」と題してパネルディスカッションを行った。

コーディネーター(司会進行)は当研究所の原田泉主幹研究員が務め、パネラーとしては、元NEC副社長で現同社特別顧問である広崎膨太郎氏、ビジネスモデル論、産業俯瞰論などが専門で著書「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるか」で知られる産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏、ネットワーク技術が専門の早稲田大学客員教授・テクノメディアラボ代表取締役の曽根高則義氏、そして今注目のFintech業界からは株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄氏と多士済々の顔ぶれが集まった。さらには、前セッションで講演を行った、西成教授、名倉主任研究員と松永主任研究員も登壇した。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

まず「スケール不変性」の概念について西成教授が補足説明をした後、各パネラーが10数分ほどの持ち時間で各々の所見を述べた(曽根高氏のプレゼン資料広崎氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)。

曽根高氏は通信技術者としての立場から、IoT時代のネットワークの在り方について所見を述べた。まず、端末とクラウドの関係性では、完全にクラウド側に依存するシン・クライアントと完全に端末が独立するフル・クライアントの間に、端末とクラウドが協調する「コ・クライアント」というべき状態があり、この領域にこそ注目すべきであると主張した。さらに電源などが一斉にダウンするような緊急時も想定して、ネットワーク自身がAI化していることがIoT時代では求められていると指摘し、「IoT時代ではネットワーク構造が、人やモノの動き・環境の変化に応じてアメーバのごとく変化する『アメービック・ネットワーク』」のコンセプトが有用と述べた。

続いて瀧氏は、IoT時代は「限られた資源でいかに戦うのか」ということが一つのテーマになっていると指摘した。そして、そのソリューションはAI等によってある程度得られるが、より重要なことはそれをどのように人が受容するかであると指摘し、そのために「インターフェースの柔軟さ」が鍵を握ると主張した。

次に、瀧氏はプライバシーの確保と個人情報の利活用のトレードオフも重要な課題となっていると指摘した。おおきな潮流としては“Long transparency, short privacy”(個人情報の公開は「買い」、プライバシーは「売り」)と個人情報利活用が優位になりつつあるものの、依然として欧州などを中心にそれに反対する意見も根強いと指摘した上で、この問題は今後も重要性を持ち続けるだろうと主張した。

妹尾氏は、「インターネット、IoTもいよいよ技術論から価値論の時代に入った」のではないかとの考えを述べた。つまり「従来日本ではHowを問うことが多かったが、今問われているのはWhatとWhyであり、Whyの領域に踏み込むことは価値観を問うことになる」と主張した。

また妹尾氏は、「これまでのIoT論は従来モデルの延長線上にある『成長論』にすぎなかったが、多形構造、ポリモルフィックの議論はそれを超えている可能性がある。つまり、さなぎから成虫に変態するように、量的だけではなくて質的な変化をするような『発展論』ではないか」との指摘をした。

広崎氏は、今回のシンポジウムでは含蓄のある深い議論が出来たのではないかとのコメントのあと、「IoTの本質は、個々の関係性が変えることにある」との指摘をした。したがって、社会関係資本(Social Capital)がより重要になり、それに伴って「何よりも個々人の立ち位置そのものが変わっていく」と指摘した。

パネラーの皆さん:左から、曽根高氏、瀧氏、妹尾氏、広崎氏
パネラーの皆さん:左から、曽根高氏、瀧氏、妹尾氏、広崎氏

シンポジウムはやや予定時間をオーバーしたものの、途中席を立つ聴講者はほとんどなく、最後まで内幸町ホールはほぼ満席という盛況ぶりであった。