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国際社会経済研究所
Institute for International Socio-Economic Studies
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プレスリリース

「情報バリアフリー化が実現されて初めて革命は全国民に恩恵」
−ITは障害者にとって不可能を可能にする希望の技術−
時事IT情報

2001年5月21日

国際社会経済研究所 主任研究員 原田 泉


IT革命は杜会を変える。そして、その変えられた社会は、だれにとっても恩恵をもたらすものでなければならないはずである。最近、2つの機関を訪問してこのことを再確認させられた。
久里浜にある国立特殊教育総合研究所(4月に独立法人化、http://www.nise.go.jp/)は、わが国の特殊教育の中心的機関である。最近では、IT、マルチメディアをいかに特殊教育の領域において有効に活用していくかを、都道府県の特殊教育センター等との協力の下に研究している。また、ここでは、教材教具の試作研究、支援機器の改良・開発も行っている。例えば、重度・重複障害のある子どもが、瞬きや息をストローに吐くことによってパソコンの操作が行えるような支援機器を開発しているのである。
知能の発達は健常者と変わりない彼らが、パソコンによってその能力を開花させ、自己表現が行えるようになるチャンスを、これらの機器が与えてくれるのである。最近では、多くの支援機器が市場に提供され、紹介する情報がインターネットで提供されてもいる。しかし、その多くは米国製であり、また高価であるため、学校教育現場や家庭などで活用が十分に進んでいない。


横浜市立盲学校
(http://www.edu.city.yokohama.jp/ss/yokomou/index.htm)は、先生方の熱意と努力で、現在、IT利用面で国内の最先進的な学校となったところである。その中心的存在の松田基章先生によれば、ITの利用によって職員や生徒がこの2年間で生活に対する意欲、教育現場での教授法などで、相当、意識が変わってきたという。特に、コミュニケーション手段としてのネットワーク利用は有効である。目が不自由だと、同じクラスの生徒同士でもコミュニケーションが活発にできたとはいえなかった。しかし、音声読み取りソフト付きのパソコンで電子メールをやりとりできるようになり、生徒同士のコミュニケーションが活発になり、外部、例えば他の盲学校の生徒たちとも交流ができるようになって世界が大きく広がったという。
同校の図書館(http://www.netpro.ne.jp/~watoson/tosyo/)は、生徒たちの読書権と図書館利用の保障を最大の課題とし、ボランティアの方々の協力を得て、自作の点字図書や「指で読む絵本」を数多く製作している。また、インターネットを積極的に利用し、「どの教室からもインターネット!そして図書検索利用できる図書館に!」をスローガンに、バリアフリーを目指した学校図書館の情報センター化を推進している。

ここで感心させられたのは、「よみとも2000」(http://www.tau.co.jp/yomitomo.htm)というソフトウエアであった。
これは、同校の新城直先生(http://www.planet.ne.jp/sunao/)が開発に加わったソフトウエアで、高齢者・視覚障害者が目常生活に必要な「読む」「書く」「拡大読書する」「点訳する」「印刷する」という5役の動作を1人で簡単に行えるように工夫されたものだ。パソコンに、書籍、新聞や雑誌の文字情報をスキャナーで読み込んだり、インターネットでニュースや情報をダウンロードして、瞬時に音声へ変換できるのである。これまで何カ月も待たされていた点訳の不便さを一気に解消したのである。
新城先生によると、ITは障害者にとっては、不可能を可能にする希望の技術であり、ITの活用によって障害があっても人生はすばらしいと実感できるような、杜会参加とノーマライゼーションが実現される可能性が広がるという。しかし、反面、ITを活用するに当たっては、さまざまな新しいバリアが生み出されているのも事実であり、障害者も高齢者もだれもが簡単に利用できるユニバーサルデザインの普及が望ましいとのことであった。

本年3月29目に開かれた政府の第3回IT戦略本部で取り上げられた「e-Japan重点計画(案)」には、「学校のバリアフリー」として「すべての盲・ろう・養護学校等の授業において、コンピュータを活用できる環境を、子どもたちの障害の状態に十分考慮しつつ整備する。また入院中の児童生徒等に対してインターネット等を通じて学習機会の提供を行えるよう研究開発を行うとともに、盲学校点字情報ネットワークシステムの充実を図る」また、「高齢者・障害者のための情報通信関連機器・システムの開発等」では「高齢者・障害者が容易に利用できる情報通信関連機器・システム(パソコン等)の開発・普及等を促進する。また、高齢者・障害者にとってアクセシブルなホームページの点検システムを作成し、実証実験を行うなど、情報バリアフリー化を推進する」とされている。
この案の早期実現を強く望むとともに、その実現に当たっては、実際に現場で苦労している先生方の意向が十分反映されるように願いたい。また、障害者に対する生活必需品については、補助金制度があるが、パソコンはまだ生活必需品にはなっておらず、個人の購入には補助金が出ない。また、聴覚障害者のファクスには出るが、iモードの携帯電話には出ない等の課題も多く存在している。ITは障害を持つ方々にとって大変有効なものである。さまざまなバリアを早急にフリーにするような国の施策や制度改革が実現されて初めてIT革命は、すべての国民にとって意味のあるものとなると思われる。


1956年生まれ。
81年慶大経卒、83年同大学院経済学研究科終了、86年日本国際貿易促進協会入社、89年コスモ証券経済研究所、91年NEC総研、98年NECに出向、2000年新設の国際社会経済研究所に出向、現在はNEC政策調査部担当部長兼国際社会経済研究所主任研究員。このほか、国際大学GLOCOM(グローバル・コミュニケーション・センター)フェロー、CAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)フォーラム常任運営委員。スマートバレージャパン実行委員などとして活躍。
主な著書に「2005年 日本浮上」(公文俊平編・共著、NTT出版)など、最近の講演99年11月の「官民協働による地域情報化」(第2回富山電脳塾)、2000年10月の「IT革命と危機管理」(隊友会)。


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