「IT不況下でも着実に進む韓国のブロードバンド化」
時事IT情報原稿
国際社会経済研究所 主任研究員 原田泉
通貨危機以降、国の危機存亡をかけて情報化の推進に努め、ハイテクベンチャーが、隆盛を極め、ブロードバンド化が世界一進んだ韓国であったが、現在米国のIT不況をまともに食らい、経済不況のどん底あると聞いて、訪ねてみた。実際、一年前はドットコム企業が溢れかえっていたテヘラン通りのインテリジェントビル群も、軒並み空き室が目立ち、隙間風の吹き抜ける寒々とした状況がそこにあった。しかし、一方ではブロードバンド化が着実に社会に浸透しているようにも見受けられた。
そんな中、韓国情報通信部のLee課長の話を聞いた。
既にブロードバンドサービスは、韓国1200世帯中、700万世帯まで普及し、来年には1000万世帯が利用する見込みだ。また、僻地、離島等へのブロードバンド普及問題は、衛星経由で結べるように計画しており、70センチのパラポラアンテナが必要だが、常時接続月額30000ウオン(10ウオン=約1円)の条件は、一般と同じで、来年の3月から100チャンネルのデジタル放送も受信できるようになる。
韓国は、知識情報大国を目指し、1111万人情報化教育計画(2000年〜2002年まで)を進行中で、一ヶ月10000ウオンの月謝で主婦にコンピュータ・リテラシーを教えるほか、公共施設でインターネットの無料使用(政府、大企業、地方自治体)や、2005年までにスラム地域(外国人向けも)に無料利用施設を作る計画もある。
この他、国民PCとして日本円で5万円ぐらいの安いインターネット用ネットワークパソコンは、郵便局で売られているし、PCが持てない家庭には政府から永久貸し出しを行っている。一方、ADSLに加入すればPCをただで貸してくれるサービス(フリーPC)を大手通信会社が行っている。
このような状況のもと、既に中学校では家庭にPCとインターネットが無ければ宿題もできない状態で、軍隊や刑務所でもインターネット教育を行っているし、老人・障碍者用のインターネット機器開発も行なわれている。韓国にいる人は、国籍、教育水準、貧富等を問わずインターネットが利用できるのである。
また政府は、特に地方にブロードバンドを普及させようと、農産物のインターネット販売を奨励しており、農家毎にホームページを作り、育成過程の画像情報を流している。このコンテンツは、日本の農協にあたる農民協会等が作っているが、このような活動を通じて、地方での啓蒙を図り、農民と都市住民の信頼関係を醸成している。一方、今年の1月には、「デジタル・デバイド解消法」が公布され、国内のデジタル・デバイド解消ばかりか、東アジアの格差解消の取り組みまで示されている。
この他、しばしば日本のマスコミでも取り上げられたことのある少年院での情報化教育に関し、法務部保護局長・検事長の金鍾彬氏に話を聞き、実際に少年院である高峰情報通信中・高等学校を視察し校長の金永吉氏の話を聞いた。韓国では、少年院改革を1999年9月から開始し、英語教育と情報化教育に力を入れ、ネイティブスピーカーによる英語教育や専門家によるコンピュータ教育を行っている。特に情報化に関しては、全国の少年院で一人一台のコンピュータとその24時間使用可能を実現している。これと平行して、社会奉仕活動の一環として、地域住民や障碍者に対して、簡単なコンピュータ・リテラシー教育を少年院の生徒が行ない、中古PCを少年院で生徒が修理し、障碍者に寄付する活動も実施している。一方、少年院での修学を一般の学校の資格と認め、前の学校の卒業証書をもらえる措置も行われている。このような取り組みの結果、多くの生徒がベンチャー企業に就職でき、再犯率も大幅に引き下がっている。
以上のように政府の施策としての情報化も、具体的な成果を上げつつある。
10年前のISDN・ビデオ・オン・デマンドは、政府が主導し、普及しなかったが、今回のブロードバンド化は、市場が主導し、政府は、奨励しつつマーケットのフィードバックで政策を決めるようにしているという。
ブロードバンド化は、PC房における対戦ゲーム(スタークラフト)や、アイドル等の裏ポルノビデオが推進役となり、急速な普及がなされたが、最近では、「アバタ」と呼ばれるネット上の「キャラクター人形」が、若者の間ではやっている。これは、チャットやメールで自分の代役として他人とコミュニケーションをとらせるもので、顔や衣装が何万通りのパターンから選べるほか、四季に応じ、服装や持ち物を換え、その際に課金されるのである。
韓国で、ブロードバンドが普及できた一つの要因は、国民一人ひとりに固有番号をつけられ、顔写真と指紋入りの住民登録カードを常時携帯しなければならないという住民登録制度にあると思われる。ネット上の決済等にこの番号を入力することで本人確定が容易に行われ、電子取引の際の大きな問題が解決されることでビジネスモデルがスムーズに進展できたことが背景にあったと考えられる。
韓国は、IT不況下にあっても、着実にブロードバンド化を進めている。日本では、現在IT革命の進展に水を差すような言動が一部には見られるが、そんなことを言っている余裕はないように思われた。
以上