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国際社会経済研究所
Institute for International Socio-Economic Studies
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プレスリリース

進むブロードバンド環境下での日本発のキラーコンテンツ・関連技術の早期確立を
時事IT情報

2002年7月8日

国際社会経済研究所 主任研究員 原田泉

米国のブロードバンド化が遅れている。6月初め、米国アトランタで開催された情報通信機器の世界的展示会スーパーコムを訪れた。IT不況を反映してか、活気があまり感じられない。実際、昨年より10%以上の参加者数減とのことである。今年の主テーマは、ブロードバンドだ。無線LANはがんばっていたものの、全体的に新技術の紹介よりも、既存の技術でよりコストパフォーマンスの良いソリューションを提供しようとしているように見受けられた。また、B2Bばかりで、B2Cがあまり見当たらない。このあたりは、米国家庭へのブロードバンド化の遅れを反映しているように思われた。シスコのCEOジョン・T・チェンバースの基調講演では、先進国で唯一米国がブロードバンド国家戦略の無いことが明示され、懸念が述べられた。
アトランタの後、ワシントンD.C.で、FCCのペッパー電気通信政策局長、AOLタイムワーナーのアンダーソン副社長、商務省NTIA(National Telecommunication and Information Administration)のレビー副長官、ワールドコムのオコーネル部長、AEA(米国電子工業会)のジョン・パラホタス副会長等に、米国のブロードバンド状況に関し話を聞いた。
どこへ行っても、皆異口同音に米国のブロードバンド化の遅れは、需要が無いからだと答える。しかし、よくよく話を聞いてみると、それぞれの言い分は異なる。FCCでは、米国の住宅事情によるラスト・ワンマイルのコスト高が指摘された。実際、ブロードバンドの通信料金は、日本の方が米国よりはるかに安くなっている。NTTによるとADSLで1999年と2002年の比較で言えば、日本が最大1.5Mbps 53.69ドルから最大8Mbps 30.39ドルと43%減額したのに対し、米国では最大640Kbps 39.95ドルから最大1.5Mbps 59.95ドルと、速度は増したものの50%価格上昇が起きている。キラーアプリケーションが今のところ、Eメールのみでは、月50ドル以上も支払う人などいない。
このキラーアプリケーションに関しAEAでは、ブロードバンドでの需要のベスト5は、「映画、映画、映画、音楽、ゲーム」だという。しかし、映画が今のところ困難なのがわかっているので、家庭向け医療サービスや対戦ゲーム等を挙げていた。では、映画がなぜ困難なのか。AOLタイムワーナーでは、ナップスターの事件により、知的財産権が守られないとの懸念がひろがり、ブロードバンド化が遅れたとし、加えて、知的財産権が守られてこそ、コンテンツ産業が発展するとして、それが十分守られるような技術的・法的裏付けが無ければ、映画のコンテンツをネットで流すことはできないと説明された。現在、暗号技術の5Cが、この問題に取り組んでいるが、当面解決策は無さそうである。
一方、ブロードバンド国家戦略の重要性を主張する流れも出てきている。昨年10月にはTIA(通信事業者協会)が、今年になって1月にTechNet(300のハイテク企業から成る利益団体)等が、その必要性を主張した。また、議会でも今年1月に上院院内総務のトム・ダシュル議員が、3月20日の議会公聴会では民主党のジョンケリー上院議員がそれぞれブロードバンド化の促進を主張している。しかし、全体としては関心が薄く、ブロードバンド関連法案も現在4本議会にかけられているが、今年中の成立は困難だといわれている。
つまるところ、全てはブッシュ政権のITへの関心の無さに起因するように思われる。就任当初からその傾向はあったが、9.11以降さらに国家安全保障重視の色彩が鮮明になるにつれ、ITはどこかへ行ってしまったような感もある。
以上のことから、米国が今後急速にブロードバンド化していくとは考えにくい。翻って日本は、どうだろう。現在、過当競争による通信料金の低下によってブロードバンド化が猛烈に進んでいるが、快適なネットワーク環境は実現するものの、いまだブロードバンドのキラーコンテンツと呼べるべきものはない。インフラが整備されることは、決して悪いことではなく、米国のような鶏が先か卵が先かの議論はもはや日本では意味の無いものになろうとしている。しかし、望むべきことは、このブロードバンド環境を元に、日本発のブロードバンドキラーコンテンツ、または、そのための関連技術を早く確立し、世界を席巻できればということである。

以上


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