IT人材が北京・上海に流出、海外資本導入で人材育成―大連市
時事IT情報
国際社会経済研究所 原田泉
5年ぶりに中国の大連を訪れた。大連は、中国遼東半島の最南端に位置し、古くからの港で東北地方の経済の中心でもある。歴史的に日本との関係が深く、日本語を話せる人も教える学校も多い。現在、日本の七都市との間で航空ルートが開通されており、週に50便余りが飛んでいる。以前より、日本からの企業進出も多く、日本向けの工業団地も造成され、キャノンや東芝、馬渕モータ等が進出し、現在では、1800社以上にものぼり、駐在事務所や支社・支店も多い。
ソフトウェア産業に関しては、5年前当時から、急速な発展を遂げており、2000年の全市のソフトウェア産業は、9億1千万元(1元=約17円)の生産額を達成し、そのうちソフトウェア輸出によるものは3億元で、前年同期比65.5%も伸びている。また、現在では、全国10大ソフトウエア地域に選ばれ、221社のソフトウエア関連企業と大連理工大学を筆頭に141校のIT関連教育機関が存在しているソフト生産都市でもある。一方、50社余りのソフトウェア企業が日本と協力関係を保っており、日本でソフトウェア開発の仕事に携わっている大連出身者も大勢いる。
大連市情報産業局ソフトウエア・情報サービス管理処処長の董莉氏によると、こうした状況下、大連ではソフト開発も含め毎年5万人のIT関連人材を輩出しているが、ここ数年大連から上海・北京等へのIT人材の流出も激しくなって、大連市自体の人材需要の急速な伸びも加わり、毎年1万人のIT人材の不足が生じているという。IT人材流失の最大の原因は給与水準の格差であり、上海では月給五千から一万元であるのに対し、大連では三千から四千元と言われている。大連でも賃金は上昇しつつあるが、まだ格差は大きい。
また、大連市には、IT人材を供給する大学として大連理工大学、大連海事大学、東北財経大学等があるが、企業は、優秀な卒業生の獲得にしのぎを削っており、学生側の完全な売り手市揚となっている。更に、IT人材で尚且つ日本語が可能な人材は更に限られており、その確保は相当難しい状況である。
大連市は、このようなIT人材不足対策として、民間部門の促進と海外資本の導入を図ってその育成にあたっている。たとえば韓国とISKプロジェクトとして8000人規模のIT学校を共同で設立運営し、社会人教育も含め人材の育成を行っている。
このような、IT人材育成の機関中、特に注目されるのが、東北大学東軟信息(情報)技術学院(http://www.doit.com.cn)である。これは、中国で有名な瀋陽生まれのソフト企業集団、東軟集団(旧東大アルパイン:劉積仁CEO)が、大連軟件園(ソフトウェアパーク)開発株式有限公司、瀋陽東軟軟件株式有限公司と共同出資し、中国におけるソフトウエア開発人材の育成を目的として2000年6月に設立した中国有数のソフトウエア開発の専門学校だ。
大連市の高台にあるソフトウエアパークに位置し、第一次開発の16万平方メートルの敷地に米国のカレッジを思わせるような立派な施設が存在している。
昨年9月開校し、現在第1期生1500名がここで学んでいるが、コンピューター技術の習得のほか、外国語の習得にも力を入れ、ソフト開発に使う英語はもとより日本語等の外国語もできる人材の育成を目指している。また、高校卒業者対象の一般コースのほか、企業からの研修派遣等を対象としたコースもある。学費は、一般の2年間コースで、年間1万6千元。今度できる日本企業向け研修6〜8ヶ月コースで、1万5千元とのことである。これは決して安いものではないが、卒業後の賃金を考えてか、受験者が殺到しているとのことであった。
また、入学者には、PCが市価の半額で提供され、構内LANでEラーニングが行われ、自主的に学習ができるようになっている。一方、欧米の主要IT関連企業が冠講座を設けており、日本からも東芝が顔を見せている。
最近、中国の情報産業部は今後2、3年でソフトウェア分野での有能な人材を育成するための人材育成基地を全国に100以上設立すると発表した。この育成基地は、北京を筆頭に省レベル・区域レベル・育成機関レベルの3段階に分け実施されるという。また、コンピューターソフトウェア専門技術資格試験はランクが増え、IT分野で最高水準の国家資格認定試験となる等、一層IT分野における人材育成が強化されている。現在、中国のソフトウェア人材は約25万人いるが、専門技術に精通したハイレベルの人材は不足しており、今後、年間約20万人のソフトウェア人材の確保が必要となる。中国では、各主要都市が大連市のように計画的に、確実に、IT人材の育成を図り、今後の発展のために備えている。5年後、10年後には中国はソフトウエア開発大国になっていることであろう。
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