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「アジアにおける日本企業が取り組む社会的責任(CSR)」

代表取締役社長 鈴木均

*注:この原稿は2013年10月12日に開催された経営民主ネットワーク主催の「東京シンポジウム2013」での報告内容を基に作成したものです。

首記のテーマに関し、先ずアジアの社会情勢について俯瞰し、それを踏まえてアジアで事業展開する日本企業の社会的責任(CSR)に関わる課題について述べます。

  1. 様々な社会課題に直面するアジア

図表1.のとおり、世界人口は増え続け、2050年には96億人に達するとみられます。世界人口に占めるアジアの割合は最も大きいのですが、2050年に人口のピークアウトを迎えます。一方、人口の都市への集中が世界的に進み、2050年には都市人口が70パーセントを占めると推定されます。これらの中心は途上国であり、都市のインフラは人口の集中に追いつかず、都市問題が世界的に深刻化するとみられます。例えば、エネルギ-、食糧、水などの資源が不足する恐れがあり、また温室効果ガスの排出量は1.5倍に増加することが見込まれます。

一方、図表2.の通り、世界の貧困人口(1日の収入が1ドル未満)は減少傾向にあり、これには中国に代表されるように東アジアの経済発展が大きく貢献しています。しかし、インドなどの南アジアやアフリカの貧困人口は減少していません。

貧困人口の総数は減少傾向にありますが、飢餓に苦しむ人口はアジアを含め世界的にあまり減っていないことが図表3.から読み取れます。アジアの経済発展によって貧困カテゴリー(1日1ドル未満の収入)に属する人口は減少していますが、食糧の高騰などによって食糧確保が困難になるなどの要因で飢餓人口が停滞していることが考えられます。

図表4.が示すように過去30年の間に地球温暖化は着実に進んでいます。その原因と見なされている温暖化ガスであるCO2の排出量も急増傾向にあります。この写真のように地球温暖化は地球環境に様々な影響をもたらしています。

地球温暖化が主因とみなされる自然災害が世界的に増加しています。図表5.のとおり、1980年から2012年の30年余の間に世界の自然災害は倍増しました。アジアでみると同期間に約3倍の増加です。

過去30年間(1982年~2011年)の自然災害についてもう少し詳しく見ると、図表6.の通り、この期間に世界全体で9610件の災害が発生し、その内アジア・太平洋地域での発生件数は38パーセントを占めています。自然災害による犠牲者数と経済損失の半分はアジア・太平洋地域で発生しています。被災者数に至っては実に90パーセントがアジア・太平洋地域の人々です。アジアは自然災害のリスクが高く、それに苦しんでいることが実態として分かります。

Maplecroft Risk Atlas社(英国)が2012年11月に発行した調査レポートによれば、世界の50主要都市の中で、最も気候変動(自然災害)リスクが高い大都市として、ダッカ、マニラ、バンコク、ヤンゴン、ジャカルタ、ホーチミン、コルカタが取り上げられています。

その背景には、温暖化による海面上昇や自然災害の増加などがありますが、急速な経済成長に追いつかない防災などの社会インフラ整備の遅れ、高い人口密度、および貧困や政府ガバナンスや教育面など、社会の脆弱性もあります。

アジアは安価で比較的有能な労働者を集めやすいことから、労働集約産業である電子・電機やアパレルなどの製造業を中心に多くのグローバル企業がアジアに進出し、またアジアを生産拠点として活用しています。例えば、電子・電機の分野ではほとんどの製品や部品がアジアで生産されていると言っても過言ではないと思います。図表7.の通り、典型的な電子・電機部品や製品のほとんどがアジアで生産されています。世界の電機・電子産業は「世界の工場」としてのアジアに依存していることが理解できます。また、最近は、経済発展に伴いアジアは有望市場としても注目され、サービス業などの外資の進出が加速しています。

  1. 2 アジアでのCSR展開の視座

以上のとおり、世界経済でのアジアのプレゼンスは高くなる一方ですが、アジアは、自然災害リスクや貧困問題に代表されるように様々な社会課題を依然として抱え、社会基盤は脆弱なままです。脆弱な基盤の上に成り立つ経済発展はリスクが高く、そのリスクが顕在化すると世界経済に与えるインパクトは限りなく大きいと考えます。日本企業を含む世界の産業界に深刻な影響を与えた2011年のタイ洪水の事例は記憶に新しいと思います。

アジアの問題点は、急速な経済発展によって起きているひずみと従来から抱えてきた社会課題の解決の遅れにあります。1.項で俯瞰したように依然として貧困問題を抱え、それに根ざした失業、腐敗、感染症などの衛生面や環境問題、治安、災害に対する脆弱性などさまざまな社会問題の存在があり、それらの解決が大きな課題です。

また、多国籍企業によるグローバル・アウトソーシングの進展は生産委託基地としてのアジアに急速な経済成長を持たらしましたが、人権、労働安全衛生の問題、環境破壊、地球温暖化や腐敗問題など、新たな社会問題発生の原因にもなっています。

アジアが抱える社会課題の解決は、地球全体のサステナビリティに不可欠であり、またアジアの安定化は日本のセキュリティにもつながるとも考えます。

従って、アジアに展開する日本企業の役割と課題は、アジアが直面する地域社会の課題解決を通じてアジアの安定化と持続可能な発展に貢献し、それによって企業価値の向上に結び付けることであると考えます。それがアジア社会における日本企業の信頼の醸成にもつながります。

繰り返しになりますが、アジア地域の最大の社会課題は「貧困問題の解決」です。貧困問題の解決には、雇用創出、労働環境改善、健康安全衛生(感染症対策含む)の改善、環境問題解決、職業訓練と教育拡充、防災、治安、交通問題、水・エネルギ-・食糧問題などの解決が前提となります。これらはビジネスリスクでもある一方、ビジネス機会でもあり、安全・安心で堅牢な社会インフラ作りに事業で貢献できる日本企業の役割は大きいと考えます。また、これらの課題はいずれも人権の領域にも関わっており、日本企業がCSR経営上対応に苦慮している人権への取り組み上ヒントになると考えます。

資材取引先での労働や人権問題対応に代表されるようないわゆる「守り(リスクマネジメント)のCSR」のみならず、事業活動や社会貢献活動を通じての「攻めのCSR」の両面から社会課題の解決に貢献するというバランスのとれた取り組みが重要です。これらがアジアでのCSR展開の視座と言えます。

  • 3.アジアに展開する日本企業のCSR経営の課題

次に具体的にはどう展開すべきかを述べます。

CSRは経営そのものでありCSR概念の経営や事業への統合が課題です。そのためには、先ず1点目として経営トップのリーダーシップによるガバナンス強化と人材の多様化推進を挙げます。事業活動の合従連衡やアウトソーシングが進展する中では、CSRマネジメントの範囲も、国内のグループ会社から海外の関係会社、さらにサプライチェーン、そして下流の取引先も含めた提携先などバリューチェーン全体に拡大していくことが必要です。また、経営面の強化からローカル人材の活用や登用は不可欠ですが、それは日本企業の課題である人材の多様性にも貢献します。アジアにはローカルのみならずグローバルで活躍できる潜在能力を持つ人材を多く抱えていますので、その観点からの人材育成も大事です。

2点目は、社会開発視点の事業展開が求められる点です。事業展開にあたっては地域社会との共生の視点から、人材育成、職業訓練、またコミュニティ問題の解決への貢献などが期待されます。例えば、タイ社会では、HIVエイズ感染対策について、問題の本質的解決のために企業内のみならず、地域社会まで広げた対応が必要です。さらにアジア社会が抱える課題を事業で解決するためには従来の発想を超えたソリューションやイノベーション創りが期待されます。

3点目は、人権デューディリジェンスに基づく人権尊重を徹底する仕組み作りです。デューディリジェンスとは、組織が社会や環境に与えるマイナスインパクトを精査、特定、回避、軽減する包括的プロセスのことです。企業には「人権尊重」が求められます。人権は企業活動のあらゆるプロセスに関わる普遍的な原理原則で、事業所内やサプライチェーンでの労働分野のみならず、地域社会の貧困解消につながるような取り組みも含め事業全体を俯瞰したホリスティックなアプローチが重要です。上流の資材調達先から下流の販売チャネルまで事業プロセスごとに関連するステークホルダーに対し、人権の視点からいかなるインパクトが発生しているか、あるいはその可能性があるかを先ず精査し、人権マッピングを作ることが出発点になります。

4点目は、実効性の高いステークホルダー・エンゲージメントの推進です。企業にとってのステークホルダーとは、従業員や労働組合、地域社会やNGO、またお客様や取引先、政府などが想定されます。エンゲージメントには、情報開示や説明などによる透明性向上の面もありますが、双方向の対話や関与、さらには連携して社会課題の解決を図るなどの意味合いも含まれます。ステークホルダー・エンゲージメントの考えは、ISO26000社会責任ガイダンス規格の中核コンセプトであり、CSR活動の基本となるものです。アジアでの社会開発につながる事業創造や人権の問題解決を考えるとNGO、現地地域社会、従業員との対話や連携が重要です。