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「サステイナブル」な社会の実現に向けて

グローバルビジネスリサーチ部 部長 山田 文明

1.スマートシティの流行廃り

 10年程前よりスマートシティという言葉がはやり、猫も杓子も飛びつき、この言葉を旗印にITベンダー各社が事業に結び付けようと試みた。この「スマート」という言葉には先進国の既にコンピュータ化されている仕組みにICTの先端技術を用いてより便利で自動化された仕組みにするというニュアンスが感じられる。実際に欧米先進国のベンダーはIEEEやスマートシティコンソーシアム(SCC)のような業界団体の活動を通じて普及に努めてきたものである。ある米国大手企業は「Smarter Planet」という言葉で推進してきたが最近ではこの言葉をあまり使わなくなり、少しトーンが変わっているように思える。

2.「スマート」よりも「サステイナブル」に

 実際に急速な都市化が進み多くの社会課題を抱える中南米のような新興国の知識人数人と話す機会を得たが、彼らは「スマートシティという言葉は聞いたことがない」、「聞いたことはあるが使わない」という人達が多く、彼らは一様に「サステイナブル」と表現していた。急速な経済発展に伴う人口爆発や都市化の問題を抱える彼らには、より便利に使いやすくカッコイイ社会というよりも、「持続可能性」の追求の方がしっくりくる言葉使いであるようだ。

 先進国であっても北欧デンマークは「サステイナブル」を最初から国の方向性を示すキーワードとして掲げて、脱炭素化、環境負荷の低減を目的とした大目標の下に細分化された個別の複数のプロジェクトを動かしている。

 決して、「スマートシティ」という言葉がダメだと言っているのではない。シンガポールや香港のような便利で贅沢で、すべてが行き届いて、国際金融都市として成り立っているコンパクトな都市にはぴったりと当てはまる言葉であると思う。そこで、ITベンダーは、欧米も、北欧も、シンガポール・香港も、新興国も、発展途上国も一律に「スマートシティ」を目指すとするのではなく、地域の課題解決の方針や戦略と連動させて言葉使い方を選択する方がより適切であると思う。スマート化もサステイナブルな社会作りの為のツールの一つである。

3.企業も国も持続可能性を重視

 世界情勢の変化は大きく、ここ数年で世界のグローバル化は急激に進み、製造は自社工場からEMSへと移り、さらに、EMSは先進国から離れて運営コストの安い新興国、より安い発展途上国へと流れて行った。途上国においてはそれまでなかった雇用の創出という恩恵には預かるが、コスト意識が末端にまで押しやられて過酷な労働を強いられるケースが出てきて、国際的な問題にもなってきた。

 一方、グローバル化して本社機能のみを残した先進国企業にあっては、合法的に法人税を低減させるためにより税金の安いところを狙って本社登録を移転させている有名企業もある。また、高額所得者にあってはモサック・フォンセカ弁護士事務所から文書が流出したパナマ事件のようなことになっている。トマ・ピケティ教授が指摘したように米国やフランスのような先進国であっても中間層は搾取されて、富の偏在が生じている。米国のトランプ大領領の就任もこれが背景としてある。

 また、日本においても終身雇用を特徴とする日本型の雇用の中で非正規雇用の増加/長時間労働/低生産性/低賃金というような問題も出てきた。物流業界、飲食業界、アパレル業界でこれらの問題が生じて、最近では老舗有名企業での過重労働事件や経営の問題が世間の注目を集めている。日本企業の持続可能性維持に向けた対応も急がれる。あれだけトップを含めてモーレツな働きぶりで有名であった企業が「残業ゼロ」を標榜したり、途上国で低コスト生産を狙っていた企業が難民支援活動を行ったりと多くの企業が労働環境の改善に向けての努力を行っている。

 2015年の9月にニューヨーク国連本部において開催された「国連持続可能な開発サミット」にて、150を超える加盟国の全会一致のもと、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。このアジェンダをもとに、2015年から2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、17の持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を達成すべく力を尽くすこととなった。これが国にとっても企業にとっても大きな方向性を示す指針となっている。

4.投資家もESGを重視

 投資家も投資対象企業を選定する際にその企業の持続可能性を重視するようになった。企業の持続可能性を評価する手法として「ESG(環境・社会・ガバナンス)」を重視する傾向は強まっている。世界最大の機関投資家とも称されているGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人) 、ノルウェー政府年金基金やカリフォルニア州職員退職年金基金 (カルパース) といった世界的な機関投資家がESGを投資対象企業の判断に使い始めた。また、脱炭素化の傾向も強まり、化石燃料に関連する企業は投資対象から外すという動きもある。そのような観点では企業はESGに合致した理念を持ち、企業の展示コーナーであれ、カタログ類であれ首尾一貫した行動や発言に心がけないと思わぬところで足をすくわれる懸念もある。

5.おわりに

 今後ともグローバル化が進展する中で、極度の貧困、不平等・不正義をなくし、地球環境を守っていくための活動が、国家にも、企業にも、住民にも必要とされる。行政、企業、市民のステークホルダーが連携を持った活動を行うことにより持続可能な軌道へのせることが出来る。SDGsの目標は広範囲な分野に跨り、具体的には無数の個別プロジェクトへと分解されていき、そこにはICT活用の機会が大いに広がるものである。

以上

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