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盛り上がる中東インフラ市場 

~トルコ・エジプト・UAE・サウジアラビア報告~

主任研究員 大平公一郎

 昨年11月に中東・北アフリカ地域におけるインフラ市場動向の調査のため、トルコ、エジプト、UAE、サウジアラビアの4ヶ国を訪れる機会をいただいたので、その内容を簡単に報告したい。

 

中東・北アフリカ地域にはサウジアラビアなどを中心とした湾岸諸国、イラク、シリアなどを中心としたレバント地方、エジプト、アルジェリアなどの北アフリカ地方、その他にイラン、トルコなどが含まれ、国土面積は対象19か国合計(注)で1,198万㎢と非常に広い。(日本:38万㎢、米国:963万㎢、中国:960万㎢)

人口は19か国合計で約4億6,000万人となり、若年層の比率も高いことから2020年には5億人超、2035年には6億人を超える見通しである。特にエジプトは8,000万人超、イラン、トルコは7,000万人超と地域内の人口大国になっている。民族はイラン、トルコ、イスラエルを除くとほとんどがアラブ人であり、おもにイスラム教が普及している。経済面から見ると、19か国合計の名目GDPは2011年に3兆7千億ドルとなり、原油価格の動向にも左右されるものの、今後も着実な経済成長が見込まれている。

こうした人口増加と経済成長を背景にして、電気・水・交通網などの基礎的な社会インフラ、また携帯電話やITサービスに関わるITインフラの需要も総じて高まっているといえる。

  • トルコは天然資源の産出はあまりないものの名目GDPでは中東・北アフリカ地域内で1位と経済的に発展しており、社会インフラについても一定程度は整っているが経済の効率化などに向けた投資はまだまだ積極的に行われると見られる。
  • エジプトは革命の混乱から経済的に苦境に立たされているもののトルコ・イランと並んで地域内の人口大国であり、インフラは未整備な部分が多く建設のニーズは非常に高いと見られる。
  • 命の混乱から経済的に苦境に立たされているもののトルコ・イランと並んで地域内の人口大国であり、インフラは未整備な部分が多く建設のニーズは非常に高いと見られる。
  • サウジアラビアは、人口増加を背景に社会インフラの需要が増加傾向にあり、石油輸出による収入をもとに多くのインフラプロジェクトが進められている。

このように4か国ともに社会インフラへの需要は増加傾向が続くと考えられるが、同じ中東・北アフリカ地域といえども、人口や経済状況などがかなり異なっており、インフラへのニーズもレベルの差があるのが実情。以下では4か国について、個別に状況を見ていきたい。

(1)トルコ

トルコは2002年からの長期政権下で政治的に安定し経済も好調が続いており、政権の政策実行能力は高い。かつては欧州を重視した政策をとってきたが、欧州経済の低迷が続く中で中央アジアや中東などとの関係を深めようとしている。

社会インフラについてはある程度の整備が進んでいるが、人口増加も続く見通しで更なる需要拡大が見込まれることから、建国100周年にあたる2023年を目途に多くのプロジェクトが進められている。

分野別にみると、トルコでは電力需要が2010年の210TWhから2020年には約400TWhに増加する見通しで電源の増設が必要となる。貿易収支の赤字抑制のために石油・ガスなどエネルギー資源の輸入を抑えることも重視しており、電力電源に占める再生可能エネルギーの構成比を2023年までに30%に引き上げることを目標としている。

交通に関しては、広い国土の中でイスタンブール、アンカラ、イズミール、アダナなど経済圏が比較的分散されているが、長距離輸送は自動車/航空が中心で鉄道網の整備は遅れている。中央アジアや中東との関係強化が進む中で、未開発の東部地域を含めた長距離鉄道網の構築は優先順位が高いと考えられ、政府も2023年までに高速鉄道・既存鉄道の大幅な延伸を計画している。都市交通ではイスタンブール、アンカラ、イズミール、アダナ、ブルサなどでメトロが運行され、路線の延伸などが計画されている。

空港については、東部地域を中心に空港の新設が計画されているほか、2016年にはイスタンブールの第3空港が完成する見込みである。港湾関係では、イスタンブールの西方で計画されている黒海とマルマラ海を結ぶ新しい運河「Canal Istanbul」が総額500億ドルの大型プロジェクトとして動く見通しだ。

ICT関係では、2011年の携帯電話の契約件数は人口100人当たり89件で普及率はかなり上昇しているが、3Gの普及や更なる高速化に向けた投資は行われていくと考えられる。

日本企業の参入は、現地企業・韓国・中国企業との価格競争もあってなかなか難しい面もある。欧州系銀行からの資金調達が厳しくなる中でJBICの活用などファイナンス面で差別化を図ることも必要となろう。

(2)エジプト

エジプトは多くの社会インフラで不足が目立っているものの、2011年の革命以降は政治の不安定な状況が継続しており、現在公表されている投資計画も前政権時に発表されたものが中心なので、新政権がどのような方針で投資を進めていくのかがまだほとんどわからない状況にある。さらに財政赤字や経常赤字などマクロ経済上の問題が格下げなどを通じて、ファイナンス面での難しさにもつながっている。

分野別にみると、電力については2010/2011年度の供給能力が27GWだが、2014/2015年度には30GWの供給能力が必要と想定されており、電源の増強が必要な状況。現在はガス火力発電が中心であるが、貴重な外貨収入源である天然ガスを節約するために2020年に風力発電の構成比を12%、水力発電の構成比を8%と再生可能エネルギーへシフトさせる計画も革命以前に発表されていた。日本のODA案件ではこうした再生可能エネルギープロジェクトを手掛けていることも特徴であろう。

エジプトの国土は大半が砂漠であって可住地面積は国土の6%に留まるが、人々の多くはカイロ周辺に居住していることや経済発展に伴う急速な自動車普及もあって、カイロの交通渋滞は激しい。自動車に代わる公共交通機関としてメトロの敷設が進められており、現在は3号線までが運行、4号線は日本のODAのプロジェクトとして建設が進められる予定になっている。将来的には5/6号線の計画もあるが、こうした公共交通機関の整備は急務である。

 ICT関係では、2011年の携帯電話の契約件数は人口100人当たり101件と普及が既に進んでいる状況だが、こちらも3Gなど高速化に向けた投資がまだ行われる見通し。また、自動車の登録など電子化されていない公的情報がまだ非常に多く、基本的なデータベース整理などのニーズも高いと見られている。

現在のエジプトは政治的なリスクが大きいため日本企業からは敬遠されているが、日本の円借款によるプロジェクトも計画されており、ODA案件などを中心に参加が検討できるだろう。エジプト政府に対するJICAのプレゼンスが高く、交通分野ではJICA作成のマスタープランが参照され、メトロ4号線は日本の資金で建設される(STEP:本邦技術活用条件を採用)ほか、再生可能エネルギー関連でも風力発電や太陽光発電のプロジェクトが動いており、他国に比べて日本政府の支援も期待できるようだ。

常に激しく渋滞しているカイロ市内(カイロにて筆者撮影)
常に激しく渋滞しているカイロ市内(カイロにて筆者撮影)

(3)UAE

UAEは、インフラ投資額が湾岸諸国の中でサウジアラビアに次ぐ2番目の大国。2009年のドバイショック以降は建設・不動産・インフラ投資が減速したが、足元では景気回復やドバイの債務借換えの成功などもあり、プロジェクトが回復しつつある。

UAEは人口が789万人(2011年/国連)と今回の訪問国の中では最も少なく、既に基礎的なインフラについては整っている状況にある。しかし、アブダビは産業の多角化による石油・ガス収入依存からの脱却、産油国ではないドバイは流通・観光立国をめざして、空港・港湾・工業団地などを中心に積極的な整備計画を打ち出している。

ドバイは特に華々しいプロジェクト計画を打ち出し、自国のアピールに繋げているが、現在では東部に位置するアル・マクツーム新国際空港とジュベル・アリ港を組み合わせたドバイ・ワールド・セントラル計画などが大型案件として挙げられる。アブダビもアブダビ空港の改装や製造業の集積を狙うフリーゾーン(KIZAD)と隣接する新港(ハリーファ港)の建設といったプロジェクトを進めている。

 電力についてはアブダビ・ドバイともに特に不足している状況にはないが、大型プロジェクトの稼働に伴う需要増も想定されている。アブダビでは現在は火力発電が中心になっているが、石油・ガスは輸出に回したいという要望もあって原子力発電所の建設計画が進められている。

 鉄道については、ドバイのメトロが先行しており現在の2路線に加えてパープルラインとブルーラインの2路線を建設する予定であったが、現在は中断されている。アブダビはメトロが設計段階に入った模様であるほか、UAEの各首長国を結び最終的には湾岸6か国とつながる予定のEtihad Railが動いている。

 ICTに関しては、2011年の携帯電話の契約件数は人口100人当たり149件と普及が既に進んでいる状況であり、LTEサービスなども既に開始されている。

ドバイ
ドバイ中心地

(4)サウジアラビア

サウジアラビアは、石油輸出による貿易収支の黒字が続いており、トルコやエジプトと異なり資金面では非常に安定した国である。社会インフラについては既に一定程度は整備されているが、人口も2,808万人(2011年/国連)と多く今後も増加が見込まれているため、社会インフラ需要はまだ増加すると見られる。

分野別にみると、他国と比較して水インフラプロジェクトの存在感が大きく、日本企業も三菱商事・荏原・日揮が共同で設立した水ingや水道機工などが参入を進めており、経済産業省や国土交通省も同分野への日本企業の参入を後押ししている。

交通分野では自動車/航空が中心になっているが、都市部での渋滞緩和や輸送の効率化を図るために、リヤドやメッカ、ジェッダなど大都市でのメトロ建設やメッカ/マディーナ間の長距離鉄道のプロジェクトなどが進められている。

 ICTに関しては、2011年の携帯電話の契約件数は人口100人当たり191件と普及が既に進んでいる状況。LTEサービスなども既に開始されており、エリア拡大に向けた投資が進められている。

資金面での課題も少なくプロジェクト数も比較的豊富なサウジアラビアであるが、生活全般における厳格なイスラム教の適用や、サウジ人の雇用を推進するサウダイゼーションの存在、現地でよく聞かれたサウジアラビア人の勤労意欲の低さなど、他国とは異なる課題が多いことも事実である。世界の新興国経済が落ち込みを見せる中で、政治・経済ともに安定しているサウジアラビアに各国企業の注目が集まり、競争も激化している状況にある。

タワー

以上のように、4か国それぞれに状況が異なり、社会インフラへのニーズもレベルの差があるが、共通する投資分野も見られる。特に鉄道については、国土の広さなどによって違いはあるが、都市交通(メトロなど)、長距離鉄道の敷設を積極的に行うことで自動車の渋滞の緩和、物流の効率化などを図る動きは各国ともに持っている。

 電力については、電源を火力から再生可能エネルギーや原子力発電に移行する動きは各国ともにあるものの、資源国であるかどうかで導入への意欲は異なっているように感じる。また、各国ともに送電網については比較的整っていると見られ、スマートグリッド/スマートシティの取り組みは、各国ともにあまり聞かれなかった。

 また、砂漠地域(サウジアラビア、UAE)では浄水コストも高いと見られるが、漏水による損失も多いと言われており、漏水検知などの技術などのニーズは高そうだ。

 各国で言われたことであるが、表に出てきているプロジェクトの獲得は難しく、本当にインフラ案件に取り組むのであれば現地政府等に足しげく出入りし先の情報を獲得する、もしくはこちらからプロジェクト案を売り込む必要があるという。日本企業にとっては、そうした情報入手のための社内体制づくりも課題の一つになりそうだ

  • 注:19か国は、アラブ首長国連邦、アルジェリア、イエメン、イスラエル、イラク、イラン、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、チュニジア、トルコ、バーレーン、モロッコ、ヨルダン、リビア、レバノン