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O2O(Online to Offline)の連鎖 ~ネットとリアルの融合~

  • 専任研究員 国枝容志生

――ショッピングモールに着くと、入り口で、まずは専用の端末にスマートフォンを「かざして」来場ポイントをゲットする。スマホの画面に、モール内のレイアウトマップが表示された。自分のいる位置が表示されている。マップ・ナビゲーションに従い、テレビで特集されていた人気の店まで向かう。お店に着き、スマホを「かざして」お店のクーポンをゲット。食事をしていると本日のイベント情報がスマホに入ってくる。イベント会場まではマップ・ナビが案内してくれる。自分が巨大な店舗のどこを歩いているか、迷う必要はない。買い物はスマホを「かざして」決済。同時にお店のポイントをゲット。帰りは、駐車場の入口に設置された案内マップにスマホを「かざして」自分の車の位置を表示。ナビゲーションに従い、車の場所に向かう。――

このような生活シーンがこれから多くなりそうだ。背景にあるのはスマートフォンの急速な普及であり、「ほしい情報が、その時、その場所で届く」ための環境が整ったことにある。スマートフォンを持つ買い物客に情報を送り、リアルな店舗へと誘導する。このような購買・マーケティングモデルはO2O(Online to Offline)とよばれ、いま、O2Oのモデルは各所で実験されており、あるいは導入され、成果を上げ始めている。

西日本最大級のショッピングセンターである阪急西宮ガーデンズでは、モバイル会員向けのO2Oサービス(SMART STACIA、阪急阪神カードが運営)がスタートした。「私は、カザシーナ」 というキャッチコピーで大きく宣伝されている。SMART STACIAの端末は館内のいたるところにあるためすぐに発見できる。無料アプリをダウンロードし来店すると、ポイントやクーポンがもらえるだけでなく、目的の店舗までのルートを示したり、歩いていると近くのお店からの情報配信をタイムリーに受信することもできる。こういった大型のモールでは、自分がどこにいるか迷うことが多いが、案内マップがスマホの中に入り、目的の店舗を案内してくれればもう迷うこともない。「位置情報と連携」したリアルタイムでの情報提供は、O2Oをより便利にするための機能として大きな役割を果たすようになるだろう。

SMART STACIAでは、鉄道やレストラン、ホテルなど阪急阪神のグループ各社が、おのおのの視点でO2Oプロジェクトに取り組んでいるのが特長。位置情報と連携させながら、鉄道・バスの時刻案内や、周辺にある様々な業種の店舗で利用できる電子クーポンを配信している。O2Oをモールの中だけで展開するのではなく、モールの外でも客の関心と合致した情報のタイムリーな提供に取り組んでおり、消費者の利便性の向上に加え、沿線の地域の活性化にもつながるはずだ。

スマポ1
スマポ2

情報を配信し、サービスを認知させ、店舗へ誘導することに加え、O2Oでは再来店につなげる仕組みが重要である。App Storeのライフスタイルカテゴリで1位にもなった人気のスマートフォンアプリ「スマポ」。このサービスでは、来店のたびにポイントを与え、ファンを作り、店舗への再び誘導させようとしている。貯めたポイントは特典に交換できる。さらにスマポで特徴的なのは、アプリ一つで、家電量販店や旅行代理店、ブティック、駅ビル内の店舗など、様々な店舗の前でポイントを得られることだ。訪問することのなかった店舗に足を延ばし、新商品を発見するなどの機会にもつながる。今後、利用者の増加に向けて、いかに協力店舗や対応エリアを増やせるかが大きな課題である。現時点ではまだまだ協力店舗数が少ない上に、店舗内のチェックインスポットがどこにあるのか、なかなか見つけらない。店舗でのポイント加算と同時にセール販促情報を配信するなど、各個人にあったサービスの提供も必要だ。

スマポ3
スマポ4

スマートフォンを活用し、ネットとリアルの店舗が融合することで、生活者の購買行動は大きく変わろうとしている。今のところ、O2Oといえば、ネットで見た情報をもとにリアルの店舗に足を運ぶ、あるいはリアルの店舗の前を歩いているとお店のクーポン情報がスマートフォンに入るというシーンに代表されるように、「一方向の送客」が主流だが、O2Oを後押しするのはソーシャルメディアの浸透である。多くの人が、リアルの店舗で見た情報、経験した情報を、SNSを駆使して人から人へと伝播させている。SNSの活用により、Online to Offlineに留まらず、O2O2O…(Online to Offline to Online…)へと連鎖していく。Facebookのいいね!を押したりコメントを書いたりすれば、瞬く間に多数の人に広まっていく。そしてそれを見たユーザが共感し、リアルの店舗に足を運ぶ。企業にとっても、SNS上で発信された消費者の声を参考にしたり、コミュニケーションを図ることができる。SNS上での発信に応じてその消費者に特典を与えるなど、アクティビティーをベースに、今までにはなかったような視点で消費者とのコミュニケーションを図る施策が増えていくのではないかと考える。

いま、SMART STACIAやスマポ以外にも、「ほしい情報が、その時、その場所で届く」を実現させるべく、特長のあるO2Oサービスが続々と登場している。生活者が商品を購入するまでのプロセスで、無意識のうちにOnlineとOfflineを行き来することも多くなるはずだ。O2O市場での競争はまだまだ始まったばかり。斬新的なアイデアを持った全く新しいプレーヤーやサービスがこれから登場するかもしれない。