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ICT統計を創る(2)「家計調査」
2013年3月29日 主幹研究員 天谷健一
前回に続き、今回も既存の政府統計からICTに関連した統計を創ってみたい。
今回は総務省が毎月公表している「家計調査」である。前回は企業の国内ICT生産状況を見る統計を創ったが、今回は家計の国内ICT需要(消費)を見る統計を創る。
今回使用する「家計調査」は、昭和21年7月に始まった「消費者価格調査」から発展したもので、名称が今の「家計調査」となったのは昭和28年4月からである。日本経済の約6割を占める個人消費を供給・販売側から見ることのできる統計は多く存在するが、需要・消費者側から見ることのできる統計は世界的に見ても非常に少なく、本統計の価値はとても高い。国の経済規模を計る国民経済計算の推計を行う上での基礎資料ともなっている
調査内容は二人以上世帯や単身世帯等の収入や支出,貯蓄・負債であり、かなり細かい支出品目まで調査対象となっており、いわば各家庭の「家計簿」を知ることができる。また、都道府県庁所在地と政令指定都市に限って都市別の集計も公表されており、品目毎の地域別ランキングも分析することができる。例えば、毎年「餃子日本一」を争っている浜松市と宇都宮市。勝敗の根拠は本統計における二人以上世帯当りの「ぎょうざ」の年間支出額である。
では、本統計の支出品目からICTに関連するものをピックアップしてみる。
約500にも及ぶ支出品目から今回ピックアップしたのは、「固定電話通信料」、「移動電話通信料」、「移動電話」、「他の通信機器」、「パーソナルコンピュータ」、「インターネット接続料」の6つである。ここでは、二人以上世帯における、これら6つの合計を1世帯当りのICT支出額とする。
2012年の1世帯当りのICT支出額は167,439円。ICT支出を構成する6品目の比率は、「移動電話通信料」が全体の58.3%を占め、「固定電話通信料」(20.2%)、「インターネット接続料」(14.4%)、「パーソナルコンピュータ」(5.1%)、「移動電話」(1.5%)、「他の通信機器」(0.5%)の順となっている。実に通信料/接続料がICT支出額の92.9%、155,488円にも達する。
消費支出全体に占めるICT支出額の比率は4.9%。他の主要支出項目と比較すると、「食料」(25.6%)やICT関連を除いた「交通・通信」(10.1%)等よりも金額は小さいものの、「保健医療」(4.5%)、「被服及び履物」(4.2%)、「教育」(4.1%)、「家具・家事用品」(3.7%)等よりも比率が大きい。
次に、図表1で家計のICT支出額を時系列に見てみる。算出可能な2002年以降の動きを見ると、ICT支出額は2011年を除いて年々増加していることがわかる。2011年は東日本大震災の影響で調査が一部欠落していること等から支出額が減少しているが、過去10年間では約1.2倍のペースで増加している。同期間の消費支出全体が減少する中、家計の消費におけるICT需要は年々高まっていることがわかる。

図表2でICT支出を構成する6つの品目を時系列に見てみると、「移動電話通信料」、「インターネット接続料」、「移動電話」が増加トレンドである一方、「固定電話通信料」、「パーソナルコンピュータ」、「他の通信機器」が減少トレンドと品目間に違いが見られる。特に2012年は「パーソナルコンピュータ」が大きく減少する中、「移動電話」が大きく増加している。スマートフォンからパソコンへの代替効果等が出ているのかもしれない。

最後に、都道府県庁所在地と政令指定都市の計51都市別のICT支出額を見てみよう。
2012年のICT支出額において、最も支出額が大きい都市は「高知市」の213,290円で、次いで「金沢市」(199,373円)、「高松市」(194,937円)と続く。反対に最も小さい都市は「和歌山市」の134,801円で、次いで「名古屋市」(137,549円)、「盛岡市」(138,124円)と続く。果たして、この結果をもって高知市民はICTによるコミュニケーション好きで、和歌山市民はそうではない、と言えるのか。
本調査を利用する際にはいくつかの注意が必要である。本統計の調査サンプル数は、全国約4,700万世帯のうちの約9,000世帯にとどまる。したがって、都市別となるとサンプル数は更に少ない。故に回答結果に偏りが出る可能性があること等には注意が必要である。
サンプル数は常に入れ替えるので、都市別に分析するには時系列に見ることが必要である。例えば、図表3で過去5年間のランキングを見てみると、安定して上位にいるのは「金沢市」、「佐賀市」、「高知市」、「福井市」、「高松市」等である。これらの市民はICTによるコミュニケーション好き、といえるのであろう。

ちなみに、「高知市」がランキング1位であることについて、高知県統計課にうかがったところ、「理由は不明」との事である。
「参考:本稿で紹介した総務省「家計調査」は以下のURLからアクセスできる。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/