サイト内の現在位置を表示しています。

アフリカは携帯電話市場のラストフロンティア

主任研究員 大平公一郎

  • 経済成長が進むアフリカ

アフリカ大陸は、約3,026万㎢(世界の22%)という広大な面積の中に56カ国(西サハラ、ソマリランド含む)の非常に多くの国々が存在している。人口を見ると、アフリカ全体では2010年の約10億人から2030年には15億人、2045年には20億人を超える水準に増加すると見られている。

経済圏では、エジプト・チュニジア・リビア・アルジェリア・モロッコなどの北アフリカ諸国と、それ以外のサハラ砂漠以南に位置するサブサハラ諸国に分かれている。北アフリカ諸国は主にイスラム教徒のアラブ人が中心で中東地域と関係が深く、サブサハラ諸国は黒人が中心で宗教もキリスト教やアフリカの伝統宗教が普及している。人口ではサブサハラ諸国の比率がアフリカ全体の約85%と圧倒的に高い。

2012年のアフリカ全体の名目GDPは2兆285億ドル、うちサブサハラが1兆2,734億ドル、北アフリカは7,551億ドルと推定されている。世界経済に占める割合では約3%に留まり、アフリカの経済規模は相対的にはまだ小さい。

ただし、経済成長率で見ると、サブサハラアフリカでは2010年以降に5%を超える高い成長率を達成し、2013年以降も同様の成長率が見込まれている。石油輸出国、低所得国、弱小国など押しなべて成長率は高くなっているが、中間所得国では中心となる南アフリカ共和国が鉱山や製造業などにおけるストライキの影響で足元の成長率低下を余儀なくされている。また、北アフリカについては、2011年以降のアラブの春を受けて政治・経済が混乱したことで成長率が大きく落ち込んでおり、新しい政治体制の構築によって回復が期待されている。ただし、エジプトなどではふたたび政治混乱に陥ったことで経済の復興の遅れが懸念される状況だ。

  • 携帯電話の普及は進むも、まだ普及の余地が残されている

このように人口の増加と経済成長が見込まれるアフリカでは、携帯電話の普及も進み始めている。ITU(国際電気通信連合)のデータを見ると、アフリカの携帯電話普及率は2005年の12%から、2012年(推定)には60%と急速な高まりをみせている。(注:ITUの地域別データでは、アルジェリア、コモロ、ジブチ、エジプト、リビア、モーリタニア、モロッコ、スーダン、チュニジアはアラブ諸国に含まれ、アフリカはサブサハラ諸国44カ国で構成されている)

 一方、他地域の携帯電話普及率を見ると、2012年(推定)では、南北アメリカ、欧州、CIS諸国、アラブ諸国は100%を超えており、アジア太平洋は100%を下回るものの、80%を上回る高水準に達している。このように、アフリカにおける携帯電話普及率は相当に高まったとはいえ他地域に比べるとまだ低い水準に留まっているが、裏を返すと他の地域は既に新規需要がほぼ見込めない水準に達しているがアフリカはまだ新規の携帯電話需要が残っているということになる。

 また、モバイルブロードバンドの普及率を見ると、2012年(推定)においては、欧州が50%を超えているほか、南北アメリカも40%となるが、アラブ諸国、アジア太平洋は10%台、アフリカは7%であり、世界的に本格的な普及が進むのはこれからといった状況。アフリカにおいても、携帯電話の普及率が高まったのちはモバイルブロードバンド化の進展が焦点となろう。

国別にみると、携帯電話の利用台数が最も多いのは人口が多いナイジェリアで1億1,278万台、次いでエジプトの9,680万台、3番手は南アフリカで6,839万台となり、主要国では既に大きな市場を形成している。

保有率を見てみると、エジプト、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアの北アフリカ諸国は軒並み100%を超えており、サブサハラでは南アフリカ、ガボン、セイシェル、エストニアなど10カ国が100%を超えているが、50%以下に留まる国も18カ国に上る。他の新興地域で見ると携帯電話の普及率が50%を下回っているのはパプアニューギニア、キューバ、ミャンマー、北朝鮮、南太平洋の島国などが残っている程度で、アフリカはまだ新規開拓が可能な最後の地域といえそうだ。

  • 通信事業者はグローバル企業の進出が目立っている

アフリカで通信事業を手掛けている企業としては、ローカル企業に加えて欧州や中東、アジアの通信事業者が進出しているケースも目立っている。ローカル企業としては、南アフリカのMTN、エジプトのORASCOMなどが自国に加えて他のアフリカ諸国でも積極的に事業を拡大しているほか、海外からの参入組としては英国のVodafone(アフリカではVODACOMとして展開)やフランスのFT/Orangeなど欧州勢、中東のZainから事業を買収したインドのBharti Airtelなどが幅広く事業展開をしている。

下表では、THE AFRICA REPORT(仏Groupe Jeune Afriqua社発行の月刊誌)が発表している2012年のアフリカ企業売上高ランキングトップ500社の中に含まれる通信事業者41社のリストをのせているが、上述したMTN、Vodacom、FT/ORANGEなど、大手通信事業者グループに含まれている企業が中心となっている。

この中の代表的な通信事業者として、南アフリカを本拠地としてアフリカ各国で通信事業を展開しているMTNの動向を見てみる。同社は1994年に設立され、携帯電話サービスを21カ国(アフリカ16カ国、中東5カ国)、インターネットサービスを13カ国で展開している。同社の携帯電話サービスの加入者は、2013年6月末で2億153万人となり、2008年末の9,070万人から倍増し、サービスを提供している21カ国のうち15カ国でトップシェアを獲得しているという。国別ではナイジェリアの加入者が5,524万人と最も多く、次いでイランの4,203万人、南アフリカの2,500人、ガーナの1,259万人と続く。

2012年の売上高は1,351億ランド(約1兆3,510億円)であり、国別では南アフリカが414億ランド(約4,140億円)と多く、ナイジェリアが387億ランド(約3,870億円)、イランが122億ランド(約1,220億円)、ガーナが69億ランド(約690億円)などとなっている。売上の構成を見ると、通話料/基本料金収入が834億ランド(約8,340億円)、データ収入が146億ランド(約1,460億円)、SMS収入が82億ランド(約820億円)、ローミング収入が186億ランド(約1,860億円)、携帯電話端末/アクセサリー販売収入が62億ランド(約620億円)と、まだ通話主体の収入体系になっている。ただし、データ収入は2011年の81億ランド(約810億円)から80%の増加となっており、今後はデータ収入が業績の牽引役となると見られる。(1ランド=10円で計算)

データ収入拡大を後押しするモバイルブロードバンド化の進展であるが、3Gサービスのユーザー数は最も浸透している南アフリカにおいても770万人と全体の30%に留まっている。また、同社のスマートフォンユーザー数は2011年末の1,070万人から2012年末では2,190万人まで増加しているが、全加入者に占める比率では10%程度となっている。同社ではインフラの整備を行い3Gやスマートフォンのユーザー数を増加させ、データ収入の拡大を目指す方針だ。またLTEについても南アフリカの主要都市でサービスを開始しているが、今後はカバレッジを拡大して本格的な普及を促進するという。

携帯電話端末については、南アフリカではAppleのiPhoneシリーズやSamsungのGalaxyシリーズ、NokiaのLumia/Ashaシリーズ、ソニーのXperiaシリーズ、HuaweiのAscendシリーズなど主要なスマートフォンが既に市場に投入されており、データ収入の増加に向けたけん引役となっている。  


          

  • 通信インフラベンダーの動き

このように今後の市場拡大が見込まれるアフリカ市場については、通信インフラベンダーも積極的に事業展開をはかっている。2013年度の通信白書によると、中東・アフリカにおける移動体インフラ市場シェアは、スウェーデンのEricssonが43%、中国のHuaweiが26%、中国のZTEが16%、フィンランドのNSNが13%となっており、特に中国の2社は中国政府によるサポートもあって、積極的に勢いを伸ばしている状況だ。

Huaweiは、サブサハラ地域に3か所の地域統括オフィス、12ヵ所の出張所/技術サービスセンター、5個所のトレーニングセンターを構えており、MTNやVodacomなど主要通信事業者と取引を行っている。

ZTEも北アフリカ、サブサハラアフリカを合わせて30ヵ所以上の販売拠点を構えている。アフリカでの売上高は2012年が78億元(売上全体の9%)となり、2011年度の107億元(売上全体の12%)からは減少となったが、引き続き重要な地域として認識されているようだ。


  • 最後に

日本企業にとってアフリカは地理的にも遠く経済発展の遅れや治安の問題などもあって、ビジネスを手掛ける地域としてはまだまだ未開拓の大陸といえるが、今年6月に開催された第5回のアフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development:TICAD)で民間の貿易投資促進(インフラ・人材育成等)がうたわれるなど、今後は日本企業と日本政府が連携して積極的にアフリカ市場を開拓することが予想される。

通信市場に関しても、これまで見てきたように携帯電話端末やインフラなどの需要拡大がまだまだ見込める地域であり、ビジネスチャンスは非常に大きいと考えられる。

 ただし欧米や中国などの主要企業も積極的に事業拡大をはかっていることから、競争は既に厳しくなっている状況だ。上述のとおり、アフリカでは通信事業者は複数国に展開している企業が多いため企業グループ単位でビジネスを仕掛けることや、中国企業が行っているようにファイナンス面でのサポートの提供など、様々な切り口からの取り組みが必要となろう。