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「国民IDの原則」の素描:選択の自由を手放さないために
『日本セキュリティ・マネジメント学会誌 Vol.37, No.2』(2023年度第2号)に、当社主幹研究員小泉雄介の研究ノート「「国民IDの原則」の素描:選択の自由を手放さないために」が掲載されました。
我が国では、マイナンバーカードと健康保険証の一体化により、マイナンバーカードの取得を実質的に義務化しようとする政策が推進されています。しかし、取得が任意とされていたマイナンバーカードを実質義務化することには、市民や有識者等からの反対意見も多く見られます。反対意見が多い背景には、日本政府が何らかの原理・原則に基づかずにマイナンバー政策を推し進めていることが影響しているとも考えられます。
国などが発行する公的な身分証明書を本稿では「国民ID」と呼びます。世界各国で発行されている国民IDは、マイナンバーカードのような物理的な身分証明書(IDカード)と、公的個人認証サービスの電子証明書のような電子的な身分証明書(デジタルID)の2つに分類されます。本稿は、これらの国民IDが満たすべき「国民IDの原則」について、カント、ヘーゲルからロールズ、センに至る政治哲学の系譜における現代社会の構成原理に基づいて、そのラフスケッチを検討しています。それは、
①国民IDは、個人の「自由」を保障するために基礎的インフラ・サービス・セーフティネットへのアクセスを提供するものでなければならない。
②国民IDは、個人の「自由」を妨げるもの(個人に何かを強制したり、行動・生き方の選択の幅を狭めるもの)であってはならない。
というものです。
この国民IDの原則の観点からは、政府は保健医療へのアクセスルートをマイナンバーカード1つに限定するべきではなく、従来の健康保険証等の恒常的な選択肢を残すべきです。また、マイナンバーカードを取得しなくてもデジタルIDを取得・利用できる手段も設けるべきであり、例えばマイナンバーカードを介さずにスマートフォンに公的な電子証明書を発行する方法を選択肢として設けるべきです。このような制度設計は、エシックス・バイ・デザインを実践するものであり、EU各国など、近年の電子政府先進諸国における政策潮流とも整合的なものです。