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マイナンバー制度とは(日本経済新聞2013年4月7日(日)「今を読み解く」に掲載)
主任研究員 小泉 雄介
3月1日に社会保障・税番号制度に関する法案(マイナンバー法案)が国会に再提出された。昨年に民主党政権下で提出された法案は11月の衆議院解散で廃案となったが、その修正法案である。2015年の秋にも全住民一人一人に個人番号の通知カードが送付され、引越し時の転入届など、所定の行政手続きでは通知カードの提示が求められることとなる。
マイナンバー制度は、国民や外国人住民に一対一に番号を割り当て、行政の保有する住民情報を照合しやすくすることで、住民一人一人の状況に合わせた適正な行政サービスを提供するとともに、行政事務を効率化するための制度である。番号法案では社会保障・税分野、災害対策等における番号利用や当該分野間での情報連携が示されているが、附則の中で法施行後3年をメドとして情報連携範囲の他分野への拡大も検討するとされている。このように、将来的には、様々な分野をまたがって住民サービスに必要な情報をやり取りすることによって、さらなる行政の効率化と利便性の向上が目指されている。番号制度が我々の社会生活にもたらすメリットや効果については、森田朗監修『マイナンバーがやってくる』(日経BP社・2012年)が丁寧に解説している。
今回まず対象とされるのは税の分野である。税分野では従来から個人に一対一に振られた税番号がないために、国税庁での法定調書の照合(名寄せ)や自治体での住民税決定手続きに多大な行政コストがかけられてきた。個人番号の導入により、税業務の効率化が期待される。しかし、番号制度は給与所得者と個人事業主との所得捕捉格差(いわゆるクロヨン問題)を直ちに解消するものではない。個人事業主がプライベートな支出を必要経費として計上していたとしても、番号制度ではその正否を判断できないからである。この辺りの事情を含め、税分野における番号利用については、森信茂樹・小林洋子著『どうなる?どうする!共通番号』(日本経済新聞出版社・2011年)が分かり易い。
これまで番号制度は1980年のグリーンカード検討の頃から何回にもわたり提案され、その度に反対運動にあい、頓挫してきた歴史がある。多くはプライバシーの観点からの反対である。日本弁護士連合会編著『デジタル社会のプライバシー』(航思社・2012年)も強調するように、番号制度とプライバシーの問題は、その国の社会的・歴史的背景を抜きにしては語ることができない。ドイツのように戦時中の経験から統一的な番号そのものが違憲とされている国もあれば、南米諸国のように統一的な番号の付番や指紋登録が全国民に等しく行政サービスを提供するための前提条件となっている国もある。各国の国情に合った番号制度を模索する必要があり、特に住基ネット訴訟を経てきた我が国においては、プライバシーの問題は避けて通れない条件となっている。
今回の法案では、番号制度における個人情報取扱いを監督する第三者委員会の創設、プライバシー影響評価の導入、罰則の強化、情報連携では個人番号は用いないことなど、随所にプライバシーへの配慮がみられる。近年は情報化の進展やビジネスモデルの多様化、国境を越えた情報流通の増加等から、消費者・国民にとって企業や組織の個人情報取扱いがますます見えにくくなり、また情報の漏洩や不正利用が発生した場合の個人への影響度も増大している。このような中、情報システムの設計にあたっては、プライバシーをあらかじめ考慮した設計を行うべきとするプライバシー・バイ・デザインの考え方が国際的な潮流となっており、プライバシー影響評価もその一環とされる。プライバシー保護の国際動向については、例えば岡村久道編『クラウド・コンピューティングの法律』(民事法研究会・2012年)を参照されたい。番号制度を1つの契機に、我が国でもプライバシー保護のあり方に関する議論がいっそう高まることを期待したい。