サイト内の現在位置を表示しています。
「快適で安全」な監視社会 ― 個人の自由が保障されなくていいのか
主幹研究員 小泉 雄介
岩波書店『世界』2019年6月号に主幹研究員小泉雄介の「『快適で安全』な監視社会 ― 個人の自由が保障されなくていいのか」が掲載されました。
情報社会の進展によって、「個人データは21世紀の新たな石油(価値あるリソース)である」と言われるようになりました。SNSの交流サイトで手軽に友人とコミュニケーションし、検索エンジンで知りたいことを即座に検索し、ショッピングサイトで買いたい物のクチコミ情報を調べて購入することで、私たちは従来考えられなかったような「利便性・快適さ」を享受しています。マンションに防犯カメラを設置し、自家用車に車載カメラを付け、ウェアラブル端末で日々の健康を管理することで、以前にも増して「安全・安心」な生活を送ることが可能となっています。その反面、自分に関するありとあらゆるデータが吸い上げられ、行動を管理するために利用され、「自由」が脅かされていることについては、ほとんど気付くことがありません。本来、個人の「自由」と、個人の「安全」「利便性」「平等」は、私たちの社会において尊重されるべき基本的な価値です。しかし情報化が進展した現代社会では、「自由」と、「安全」「利便性」「平等」とは、一方を追求すれば一方を犠牲にせざるを得ない関係にあります。
本稿では、「安全」と「自由」が対峙する局面としてイギリスとアメリカにおける監視カメラと顔認識技術、「利便性」と「自由」が対峙する局面として消費者に対するプロファイリング、「平等」と「自由」が対峙する局面として途上国における住民登録と国民IDカードを取り上げ、行き過ぎた監視社会化と、それによる個人の自由への侵害に対して一定の歯止めをかけるための方策について考察します。