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米中新冷戦時代のサイバーセキュリティに関する調査研究

2019年4月~2020年3月

【執筆・担当者】
土屋 大洋(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授/グローバルリサーチインスティテュート上席所員)
小宮山功一朗(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート 所員)
唐 嵐(中国現代国際関係研究院 サイバーセキュリティ研究所 所長)
魏 亮(中国現代国際関係研究院 サイバーセキュリティ研究所 副所長) 
原田 泉(国際社会経済研究所 上席研究員)

   IoTの進展に伴いサイバー攻撃はサイバー空間における安全保障ばかりでなく、実空間における安全保障の在り方も大きく変え、加えてAI、特に深層学習(画像認識等)の進展によって、AIの軍事革命として戦争を情報化戦争から知能化戦争へと移行させ、先頭を走る米国を中国とロシアとが急追する状況である。周知のように軍事バランスの変化は国際関係の変化に直結し、今後AI開発の優劣が国際関係をも左右することになろう。そのAI開発は米中が突出しており、いわばサイバー米中覇権分有に加えAI米中覇権分有時代が到来しているのである。このことは経済面にも影響し、米中貿易摩擦は、サイバー空間でのデータ獲得競争、AI開発をめぐる知的財産保護と国家支援の在り方、そして華為問題、5G問題へと続いている。

   これらをもって米中新冷戦時代に突入したとの見方さえある。米中新冷戦の構造化が進むことは、世界市場が、市場原理によってではなく政治的に分割され、米国と中国の間で他の国家を巻き込んでブロック化が進むことを意味する。ブロック化は我が国にとって悪夢としか言いようのないものであることは過去の歴史が示すところである。

   ついては、我が国は、世界がブロック化しないように米中に強く働きかけをしてなければならず、そのためにも、国内では民主主義と法の支配、自由貿易という自由主義世界を束ねる共通の価値観を維持強化し、民主的なIT市民社会や公益資本主義の道を探っていくことも必要かと思われる。また安全保障では我が国は自分の国は自分で守るという原則を実現するような政策を堅持しなければならないが、もちろん日米同盟は可能な限り継続強化していかねばならない。一方、サイバー空間での国際ルール確立に積極的に尽力になければならないが、特にサイバーセキュリティでは米国製への依存から脱却し、自主開発、自主生産の割合を増していくことが肝要と思われる。

   本調査研究では以上のようにサイバーセキュリティと関連AIの最新事情を調査するとともに、その及ぼす新冷戦時代における国際関係について調査し、我が国の今後行うべき対応を考察した。