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データの利活用が生み出す新しい金融サービスに関する調査研究

2019年4月~2020年3月

【執筆・担当者】
大平公一郎(国際社会経済研究所 主幹研究員)

   本調査研究では、中国における、インターネットの活用とデータ取集、金融におけるデータの利用、新しい金融サービスに関する調査報告を行った。その主な内容は以下のとおりである。

   中国でのインターネット利用者は9億人に迫り、インターネットの利用目的も、コミュニケーションや情報収集などから、買い物、食事、移動、旅行、といった日常の生活で行われる行動全般に広がる動きが強まっていることが伺える。

   中国のフィンテックは、バックエンドのデジタル化、フロントエンドでのインターネット活用という段階を経て、現在は金融サービス全体をデジタル化・自動化するフェーズにある。決済の分野では、スマートフォンを利用したモバイル決済の普及が現状も進んでいる。融資の分野では、急速に普及したP2Pレンディングが規制の影響などを大きく受けて減少傾向にあるが、企業向けではサプライチェーンでの融資、個人向けでは融資のリスク管理に注目があつまっている。

   金融・フィンテックでのデータ入手先としては、①公共のオープンデータ、②通信事業者やデータ取扱事業者などから購入するデータ、③様々な企業との連携で得られるデータ、などがあげられる。データの種類は膨大になっているが、どのようなデータに価値が見いだされるのか、などはまだ定まっておらず、今後進むデータ取引などが注目される。

   融資でのデータ活用では、不正防止、借り手の信用度診断などにデータおよびデータ分析結果が利用されている。データ収集・分析に特化したフィンテック企業も存在する。

   中国は信用スコアの先進国であり、芝麻信用など民間主導の信用スコアが普及し、信聯の開始など、国主導で情報の一元化、システムの統一を予測させる動きもある。用途も融資の判断材料などにとどまらず、社会信用システムでは行動の制限にまで踏み込むものとなっている。

   金融分野でも生体認証の利用が進み始めている。特に顔認証を使った決済システムが導入されており、ここでもアリババ・テンセントがしのぎを削っている。

   中国政府は異業種の金融業参入を容認し、様々なサービス提供に対して寛容な態度を示していた。現状、そうした自由放任な姿勢はかなり薄れ、特にP2Pレンディングに見られるように、規制の強化によって提供企業・取引額が大幅に減少してしまったものもある。信用スコアなど民間主導で浸透したサービスについても、国の関与を強めようとしている。このように、監督が厳しくなる中でも、新しいサービスを生み出すことができるのか、という部分は、イノベーションを起こす環境の在り方、という点で注目を集めそうだ。