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米中新冷戦と日本企業の経済安全保障対策に関する調査研究

2021年4月~2022年3月

【執筆・担当者】
土屋 大洋(慶應義塾大学政策 グローバルリサーチインスティテュート)
小宮山 功一朗(慶應義塾大学 グローバルリサーチインスティテュート)
原田 泉(国際社会経済研究所 上席研究員)

   現在、ポスト・トランプ、ウィズコロナの世界にあって、米バイデン政権による国際協調路線への転換はあるものの、基本的に米中の覇権争いに変わりはなく、このまま世界がブロック経済化するようなことになれば、日本経済は成り立たず、米中ともに国益を大きく損ねることになろう。したがって、日本にとって、米中間の覇権争い如何に軟化させ、経済安全保障と対中国経済交流のバランスを如何に適正にして、その影響を抑制するかが課題となる。

   また日本の経済・産業にとって、経済的強靭性や先端技術の開発競争力強化とともに、サイバー攻撃に対する防御力の向上は喫緊の課題となっている。日本の企業家は米中対立のなかで、一時的に嫌なものから逃げるといった姿勢ではなく、米国の対中政策やその実態を注視するとともに、中国の政治状況や市場と産業への観察と関心を維持しつつ、長期的視野に立って中国事業を構築し、自らの実力を高めていかねばならない。

   その際、経済安全保障に関しては、その定義を広くとらえすぎて曖昧なまま議論だけを拡大し、その政策を進めれば、費用対効果を無視し国益を損ねて、国際競争の場において日本企業に不利益をもたらしかねないことをしっかりと認識しておかなければならない。日本の国益と安全保障を現状に沿って現状を確認し、自由と民主主義の堅持、法の支配といった原則に則って慎重に様々な施策を進める必要があり、民主主義の基盤となる自由な経済活動を過剰に阻害することのないように心がけるべきである。

   単純に米中のどちらにつくかといった踏み絵を踏むのではなく、大事なことは、日本自身が他国に過度に依存する状況を変える戦略的自律性の確保であり、世界で日本のプレゼンス、優位性を高めていく戦略的不可欠性の維持・強化・獲得であって、自らを自らで守る自律的な防衛力を、経済外交を含む様々な分野でしっかりと作り上げ、米中両国と経済活動やビジネス、取引を継続する中で、両国の対立を融和へと導く外交面でのリーダーシップも発揮することだと考える。

 本調査研究では、以上のような基本認識の下、慶應義塾大学の土屋大洋先生と小宮山功一朗先生とともに今後の我が国と企業の進むべき方向に関し考察した。