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グリーントランスフォーメーションに関する調査研究

2022年4月~2023年3月

【執筆・担当者】
松永 統行(国際社会経済研究所 主任研究員)

  グリーントランスフォーメーション(GX)とは、地球温暖化などで問題となっている環境破壊を先端技術の力で解決し、脱炭素社会への向けた変革を意味する言葉であるが、あらゆる主体が取り組むべき21世の変革を標ぼうする概念であり、2030年、あるいは2050年に向けて、日本企業においてもその重要度を増している概念である。
 日本において活動が本格化したのは、コロナ禍における2020年9月の中国に続く、10月のカーボンニュートラル宣言であるが、その起点は2015年に採択されたパリ宣言にある。このパリ宣言を受け、2019年12月に、欧州委員会が公表したグリーンディールにより、グリーン化は次世代の経済社会の最重要のキーワードと認知されるようになり、世界の先進国ばかりではなく、途上国も含めた地球規模の社会変革の潮流を生み出している。
 日本においても、産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を目指すと掲げ、2022年7月には、内閣官房が第1回GX実行会議を、年内に5回のGX実行会議を開催し、2023年には、気候変動問題への対応に加え、ロシア連邦によるウクライナ侵略を受けた形で、GX実現に向けた基本方針が公表される流れが生まれている。
 このような流れの基点となった欧州グリーンディールのソート概念は、社会のグリーン化とデジタル化が一体となった概念であり、欧州連合創設後の2000年以降から現在までの約20数年間で、欧州・ドイツが中核となり創出してきたものである。取り分け、2015年には欧州で独り勝ちと言われたドイツの経済成長にもその背景がある。ドイツは、2016年には中国を抜き世界最大の経常黒字国になり、質実ともに欧州の経済の中核的な役割を担うようになった。この成長には、21世紀初頭に始まった科学技術・産業政策であるハイテク戦略の継続的な展開がある。気候変動への戦略的な投資もこの枠組みの中で始まり、2007年には気候保護のためのハイテク戦略が策定された。また、気候変動問題においては、市民活動が司法に直接影響するのが、欧州、取り分けドイツの、もうひとつのグリーントランスフォーメーションの特徴であり、今後の気候変動問題や、さらには生物多様性問題を捉えるためには、市民活動の動向も大きな影響力を持つ。
 グリーントランスフォーメーションの流れは、情報基盤の劇的な進化によるデジタルトランスフォーメーション(DX)に始まるが、世界がデジタルでつながる中で起こった経済危機であるリーマンショックをいち早く克服したドイツが、欧州を牽引しながら、グリーン化と民主化という21世紀のソートリーダシップのイニシアティブを発揮させている。欧州のグリーントランスフォーメーションとは、カーボンニュートラルを実現するための再生可能エネルギー転換を指すのではなく、より自律的で安定した民主的な社会基盤をもつ社会変革を意味する。より広いこのようなソート概念を、欧州におけるグリーントランスフォーメーションの活動とともに理解することは、日本の変革を再考する上においても有用である。

   本年度の調査研究では、本調査報告では、まず、欧州をリードする環境先進国ドイツを生み出した背景を紐解いた上で、欧州の主要なグリーントランスフォーメーションの動向を、ドイツ、フランス、デンマーク、英国の現地調査とともに実施している。