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IISEシンポジウム「ヘルスケアデータの円滑な共有と利活用」開催報告

2024年3月15日

   今年度のIISEシンポジウムも、会場参加とオンラインのハイブリット型での開催となり、約90名の皆様にご参加いただきました。昨年以上に会場でご参加も増え、ご登壇の先生方も交えた活発なコミュニケーションにつながりました。

   シンポジウムは、弊社理事長の藤沢久美からのご挨拶で始まり、基調講演として、厚生労働省 医政局 特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室企画官の西川宜宏氏から「医療 DXとデータ利活用の促進について」(西川氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)と題し、医療DXの最新動向についてお話いただきました。2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指すためのアプローチのひとつが「データヘルス改革」となります。データの一次利用としては、全国医療情報プラットフォームの構築が急がれており、そこで共有されるデータの二次利用としても、提供の方針や信頼性確保のあり方、連結の方法、審査の体制、法制上あり得る課題等の論点に対して、2023年度中を目途に検討体制を構築されるとのことでした。医療DXは、ペーパーレスや手続きの電子化にとどまるものではなく、医療・介護の在り方も変えるものであるとのお話しは、欧米に比べて遅れをとっている二次利用の法制的・環境的な整備についても期待を感じさせていただけるご講演でした。

弊社理事長 藤沢からのご挨拶

厚生労働省 西川企画官

 続いて、大阪大学 工学研究科地球総合工学専攻 教授の木多道宏氏からは、「ケア環境におけるデジタルツインの展開と『豊かな心の世界』の実現」(木多先生のプレゼン資料はこちらをクリックください)と題し、大阪大学とNECが2021年に設立した「NEC Beyond 5G協働研究所」にて実施している共同研究を中心にお話しいただきました。デジタルツインを活用することで、介護環境に「豊かな心の世界」を創り出すことを目標としており、⽇本モンテッソーリケア協会(代表理事:杉⽥美和 ⼤阪⼤学特任准教授)が運営する2つの施設を実証の場とし、リアルな世界では、居住者の会話や表情などを記録し、デジタルの世界では、スタッフのプライバシーへの配慮と看護・介護上の必要性などを考慮した「⼈に優しいデータ収集」することで、環境と心の状態との関係を分析されています。これにより、「できることは自分でできる、自分らしい生き生きとした毎日を過ごす」というモンテッソーリケアに根差した未来の介護につなげていくとのことでした。また、講演の冒頭には、自分と他者との関係から「場づくりの意義」についてご説明をいただき、その概念図はアートのような美しさがありました。

大阪大学 木多教授

臼杵市医師会立コスモス病院 舛友副院長

休憩を挟み、後半のプログラムは、臼杵市医師会立コスモス病院 副院長の舛友一洋氏から「うすき石仏ねっとにおけるヘルスケアデータの共有と活用」(舛友先生のプレゼン資料はこちらをクリックください)と題するご講演から始まりました。先進的な医療情報連携ネットワークのお取り組みとして知られる「うすき石仏ねっと」は、臼杵市内の医療・介護機関を結ぶ情報ネットワークであり、患者・利用者が「石仏カード」を提示することで、様々な機関にあるデータを共有することができ、その特徴は、双方向の情報共有にあるとのことでした。母子手帳など市民にとって魅力的なサービスを追加していくことで、利用者は、高齢者から子供を持つ若い家族にも拡大しており、臼杵市とのエビデンスに基づいた連携も魅力的なものでした。舛友先生からは、国で進められている医療DXの見通しについてもご示唆いただき、私たちが目指すべき医療DXの姿がそこにあると感じられるものでした。

続いて、弊社主幹研究員の遊間和子からは、「英国で進むヘルスケア分野のAI活用」(遊間のプレゼン資料はこちらをクリックください)が報告されました。AIの分野において世界的なリーダになることを目指す英国では、「責任ある信頼できる AI」を掲げて、巨額の開発資金と促進施策を講じています。ヘルスケア分野では、NHSによる「AI Award」で、資金提供だけでなく、研究や実証が行えるNHSの病院などの場を提供し、エビデンス構築まで支援する伴走型支援が大きな効果をもたらしています。AI開発のためには、質のよい大量のデータが必要となり、データの二次利用が重要となりますが、NHSサイトに詳細な情報を公開するだけでなく、同意できない場合には、自分自身でデータをオプトアウトできる仕組みなどを整えることで透明性を高め、国民の理解につなげているとのことでした。

弊社調査研究部 遊間

東洋大学 山田名誉教授

   東洋大学 名誉教授の山田肇先生からは、海外先進事例の2つ目として「台湾におけるヘルスケアデータの二次利用」(山田氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)が報告されました。デジタル担当大臣であるオードリー・タン氏が世界的に有名な台湾では、ヘルスケア分野でのデジタル化も様々に進んでいますが、国民健康保険のデータ二次利用に対しては、個人情報保護法に違反しているのではないかとの訴訟があり、昨年、最高裁から「改善点はあるものの違法ではない」という判決が出されたということでありました。個人情報保護に配慮しながら、データを活用した学術研究や製品・サービス開発も進んでおり、小さな国内市場だけを相手にするのではなく、最初から、米国や日本で医療機器としての承認を取り、活動の幅を広げているというお話しは、日本企業にとっても刺激的なものでした。

   最後に、アクセシビリティ研究会の主査でもある東洋大学名誉教授の山田肇氏から、「アクセシビリティ研究会による調査研究のご紹介とまとめ」(山田氏のプレゼン資料はこちらをクリックください)と題し、研究会で作成中の調査研究報告書についてご紹介させていただきました。

    閉会にあたり、弊社理事の林祥一郎より本日のシンポジウムの所感と御礼のご挨拶をさせていただき、盛会に終えることができました。

弊社理事 林からの閉会のご挨拶

会場に置かれたご案内

スピーカーとプログラム

13:30 ご挨拶 株式会社国際社会経済研究所 理事長 藤沢 久美
13:35 基調講演
「医療 DXとデータ利活用の促進について」

西川 宜宏
 厚生労働省 医政局 特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室 企画官

14:15 講演1
「ケア環境におけるデジタルツインの展開と『豊かな心の世界』の実現」

木多 道宏
 大阪大学工学研究科地球総合工学専攻 教授

(14:55-15:10 休憩)
15:10 講演2
「うすき石仏ねっとにおけるヘルスケアデータの共有と活用」

舛友 一洋
 臼杵市医師会立コスモス病院 副院長

15:50 講演3
「英国で進むヘルスケア分野のAI活用」
遊間   和子
 株式会社国際社会経済研究所 調査研究部 主幹研究員
16:15 講演4
「台湾におけるヘルスケアデータの二次利用」
山田   肇
 東洋大学 名誉教授/アクセシビリティ研究会主査
16:40 アクセシビリティ研究会による調査研究のご紹介とまとめ(15分) 山田   肇
 東洋大学 名誉教授/アクセシビリティ研究会主査
16:55 閉会 株式会社国際社会経済研究所 理事 林 祥一郎